小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
葉咲 透織
葉咲 透織
novelistID. 38127
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ジェラシー・イエロー ~翡翠堂幻想譚~

INDEX|1ページ/10ページ|

次のページ
 

序章 騒がしい幽霊




「なにっ、なんなの……っ?」
テレビはついている。地震速報はやっていない。だからこれは、この部屋だけが揺れているのだ。
ワンルームの狭い部屋だが、好きで集めた食器の類が震動によって棚から落ちて、割れた。
「きゃあ!」
電気が消えた。本棚の上に置いてあった、彼と二人で撮影した写真を入れたフォトフレームが落ちて、これも割れてしまう。
五分ばかり揺れは収まらない。ようやく終わって、ずるずると座り込んだ。
「また……?」
復旧した電気に目をしぱしぱと瞬かせて、カレンダーを見る。
「また、日曜日……」
それも決まって夜の10時だ。それ以外の日にちには、何も起こらない。
怖くて不安で、携帯で彼に電話をかける。
すぐに留守番電話に切り替わる。溜息とともに通話を切り、ついでにそのままボタンを長押しして電源を切った。
改めて部屋を見回すと、雑然としていた。これを今から片付けなくてはならないのかと思うと憂鬱だった。





結局昨日の夜は、後片付けに時間がかかりすぎてしまい、寝不足だった。欠伸は止まらないし、肩も凝っている。
仕事には集中できなくて午前中の勤務だけで上司に何度も注意されてしまった。その度に平謝りに謝るしかない。
いったい私が何をしたというのだろう。
またひとつ、大きく溜息をついた。
その様子を見かねた同僚が、肩をぽん、と叩いた。
「ランチ行こ?」
財布だけを手にした彼女に微笑んで、自分も財布を持って立ち上がった。
近くにあるイタリアンレストランに行く。リーズナブルな価格で美味しいパスタが食べられるので、女性社員には人気がある。
自分と同僚も気に入っていて、週に3回は来店する。
運ばれてきたセットのグリーンサラダをフォークでつつく。しかし食べようとしない自分を不審に思ったのだろう同僚は、「どうしたの」と真剣な表情で尋ねてきた。
就職で地元を離れ一人暮らしの自分には、何でも話せる親友という存在は近くにいない。
目の前の同僚をじっと見つめた。
同期の女性は彼女だけだった。他は皆男性で、気後れしていた自分を気にかけてくれたのは彼女だけだった。
大学院卒だという彼女は自分よりも少し年上だったので、姉のように気遣ってくれた。
今身近で頼れるのは彼女だけだ。意を決して口を開いた。
信じてもらえないかもしれないけれど、と前置きした上で、自分が今陥っている状況を簡単に話した。彼女はふむふむと聞いて、ぽつりと「それってポルターガイストじゃない?」と言った。
「ポルターガイスト?」
「知らない? 幽霊の仕業よきっと」
現実主義的な彼女の口から幽霊なんて言葉が飛び出して驚いていると、更に彼女は続けた。
「それならね、きっとここの人が解決してくれるわ。あなたが本当に困っているのならば、その店がわかるはず」
彼女はそう言って、財布の中から一枚の名刺を取り出した。