小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

アルフ・ライラ・ワ・ライラ3

INDEX|1ページ/1ページ|

 


3:闇の魔神(ジャハール)


どれくらい飛んでいたのだろうか。ふと前を見やると、白い砂漠にぽつりと黒い影が見えた。小さなオアシスだ。
男はクルリと体を反転すると、そのままオアシスへ向けて降下する。
長い間同じ姿勢でじっとしていたため全身が痺れて、感覚もない。
ドサリと地面に下ろされたイオはそのまま無様に地面に倒れ込むと、ヨロヨロと膝をかかえて小さくなった。
男はイオのすぐ側に着地する。
「さてと、望み通り街から出たぜ」
「・・・あなた、いったい何者なの?」
青白い顔で見上げてくる少女を見下ろして、得意げに男は口をひらく。
「石に封じられし全能なる存在。久遠の時を生きる万能の願望器。一千の軍勢すら瞬きに蹴散らす、闇の王」
(それは・・・)
知恵の館の書物で読んだことがある。
遠い昔、それこそ神話の時代にさかのぼり、器物に封じられた魔物の話を。
持ち主のどんな願いでも叶えることができる、人とは異なる存在。

――――精霊(ジン)とよばれる存在を。

驚きにイオは声をあげる。
「じゃあ!あなたは精霊のたぐいなの?」
「精霊だと!?ばかにしやがって!!」
いったい何が気にさわったのか、突如男は牙をむいて激高する。
イオを睨み付けると、噛みつくように怒鳴りつけた。
「いいか、おれの名はジャハール!その気になれば、この世界をぶっこわすことだってできる闇の魔神だ!!精霊なんぞ、あんな低級なもんと一緒にすんじゃねぇ!!」
「わかった、わかったから!だまって」
「ぐぅ!」
あまりの剣幕に思わずイオが声をあげると、魔神はピタリと口をつぐむ。まるで見えない何かに押さえつけられたかのようだ。
「どうしたの?」
ギロリとジャハールはイオを睨み付ける。
「ねぇ、どうしたの?話して」
「っは。いいか、教えてやる。お前が願えばたとえどんなつまらん願いだとしても、おれの体は言うことをきいちまうんだ。わかったら、くだらねぇこと口にするんじゃねえぞ」
闇の魔神は忌々しげに吐き捨てる。
(そうは言っても・・・)
精霊や魔神など何百年、何千年も昔の、おとぎ話の世界だ。
だが、目の前にいるこの男。
ただそこにいるだけで、空気を伝わってビリビリと圧倒的な力が感じられる。

――――その存在に闇が喜び、夜がおびえ、その形をかえるほどに。

じっとジャハールと見つめ、考えこむ様子の少女に、機嫌が戻ったのか、魔神はニヤリと笑うと口をひらく。
「ようやく、わかってきたようだな。その指輪の前の持ち主は世界の、そうだな、半分くらいは支配したぜ。おれの力をつかって、いつまでも老いることなく、死ぬこともなく、王座に君臨し続けた。だが、うんざりした息子に裏切られ、殺された。ふん、つまらねぇ死に方だ。おかげでこっちは、また指輪の中だ」
「世界の半分を支配なんて、そんな・・・」
「なあに、おれの手にかかればたやすいもんだ。いま、お前の手には力がある。おれを使え。おれに願え。お前を見下したやつらなど、足下にも及ばねぇ。どれほど大国の王でも、高名な魔術師でも持ち得ない、強大な力だ」
「力・・・」
「どんな願いも叶えてやろう・・・」
さあ、と誘うように男が手を伸ばす。黒い双眸が怪しげな光を放ち、その深い闇に吸い込まれそうだ。甘い囁きに、ゴクリとイオは喉を鳴らす。
「何でも、願いが叶う・・・」
「そうだ。国を望むか?それとも山ほどの財宝か?」
ぐらりとイオの体がかしぐ、そろそろと手を差し出すが。
「手始めに、そうだな、この国の都に攻め入ろう。途中の街はすべて破壊し、征服する。邪魔するやつらは皆殺しだ。刃向かうやつらも皆殺し。そうすりゃ、あっという間に、すべてがお前に従うぜ」
その言葉に、ハッとイオは目が冷めた。頭から冷水をかけられたようだ。
ブルブルと首を振ると、キッと魔神を睨み付け少女は口をひらく。
「いやだ」
「はぁ?!」
「わたしは、そんなこと望まない」
「じゃあ、どうするんだよ」
どさりと少女の傍らに座り込むと、魔神は挑発するかのようにヒラヒラと手を振る。
確かに、力があればいいと思っていた。
試練に受かり、父上に認められたかったから。こっちを向いてほしかったから。
でもそれは、こんな力ではない。
壊滅した市場が目の前によみがえる。血を流し逃げまどう人。苦痛にうめく声。瓦礫の隙間からのぞく血に濡れた手。恐怖に泣き叫ぶ子ども。恐怖と敵意をむきだしにした視線。
ぞくりと、イオは身をふるわせる。
――――ちがう。わたしはこんなこと望んでない。
「もう、壊したりとか、誰かを傷つけるのはやめてよ」
泣きそうな声で呟く少女を、魔神はぽかんと見つめると、突如、腹を抱えて笑い出した。
「くっ、はははは!こいつはけっさくだ!!よりによって、このオレに『だれも傷つけるな』なんて願うやつがいるとは!!はははっは」
なんと言われようとも、イオは怖くてたまらなかったのだ。
一瞬で、それこそ気まぐれで、人を傷つけ全てを焦土に変えてしまう。
恐ろしい力を持つ、この魔神が。

――――まるで災厄か呪いのようだ。

涙をぬぐい、イオは考える。
ひとしきり笑ったのか魔神は身をおこすと、考えこむイオを哀れそうに見て嘆息する。
「なんだ、お前、めんどくさいやつだな」
「・・・ねぇ、さっき何でもできるっていったよね?じゃあ、この指輪を外してよ」
イオの言葉に男はパチパチと瞬きすると首をふる。
「そいつはできない相談だ」
「なぜ?」
「すでに契約はなされた。持ち主が死なねぇ限り、そいつは決して離れねぇ」
「そんな・・・」
「ま、おれも久々に外に出たんだ。そう簡単に死んでもらっちゃ困る」
ニヤニヤとこちらをのぞき込んでくる男を睨み付け、イオは考える。
ジャハールというこの魔神、確かに強大な力をもっているのだろう。市場を壊滅させたときも本気で力をつかったようには見えなかったし、おそらくは、はしゃいだら壊れた程度にすぎないのだろう。
ゾッとした。どう考えても、魔術師見習いの手に余る話だった。
なんとかして、指輪を外さなくては。うんうんと考えこみ、はたとイオは思いついた。
おとぎ話、伝説の存在、その魔神が目の前にいるなら・・・
「そうだ!ジャハールに外せなくても、他の精霊ならできるかも!」
「はぁ?!」
「そうだよ、闇の魔神がいるなら、他の精霊や魔神だっているかもしれない」
キッと顔をあげてイオは宣言する。
「決めた。わたし、精霊を探す。それで、この指輪を外してもらう」
「おいっ、小娘、ふざけんなっ!できるわけないだろう!!それより、玉座を望め!おれを使えば、この世のあらゆる富と力が手に入るんだぞ!!」
なおもぎゃいぎゃいと文句を言うジャハールをキッと睨み付けると、イオは口をひらく。
「小娘じゃない。わたしはイオ。もう寝るから静かにじっとしてて」
途端にぴたりと石のように静止する男。
その傍らにイオは横になると、さっさと目をとじた。
やがてすうすうと健やかな寝息が聞こえてくる。
不機嫌そうに顔をしかめていたジャハールだが、冷えてきた砂漠の夜にイオが身を震わせると、指をならして炎を喚びだし、少女の体をあたためてやった。