一期一会
「思いやりと真心が、わたしの企業秘密よ。お得意さまになって頂く前に親友になって頂くの。
だから入院しても収入がゼロにはならなかった……」
車窓に見慣れた風景が広がっていた。月の位置は随分高くなったように思う。旅の終わりは、いつもながら切ないものだと、早川は思った。
「もう遅いけど、わたしのところに寄って行く?」
「……明日は早いから、車をマンションの駐車場に入れたら帰らせて頂きます」
「わたしのアドレスは要る?」
「……遠慮させて頂きます」
「そうね、余計な保険に入らされたら損だものね」
「生きて行くだけで精いっぱいですからね」
早川の住まいの近くを通過した。いつも買いに行く二十四時間営業の弁当屋のいつものように明る過ぎる照明が、道路にまだ残っている水たまりに映っていた。
了