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ネメシスの微睡み~接吻~微笑

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ネメシスの微睡み 2 



 印を結び、小さく音を発すると、バルゴの聖衣は去り際に優しく撫でるようにして、パンドラボックスに戻った。
 己の身体と一体化している聖衣を重いとは感じたことはなかったけれども、先ほどの謁見による重圧が気怠さの原因となって、全身に纏わりついていた。
 簡素な作りではあったが滞在するには別段不自由は感じない私的空間へと滑り込み、そのまま水浴びを済ませる。
 ひどく不快だった感覚が冷たい水が払ってくれたような気がして、すっかり冷えきって皮膚の感覚が鈍くなったころ表に出た。すると――。
「おーい、シャカ、戻ったか?」

 主の許可もないまま、無遠慮に私的空間へと入り込んで来る者がいた。こんなことをするのは恐らくただ一人。

「アイオリア、何かね」

 予想した者の名を呼ぶ。まだ水を滴らせたまま、布に手を伸ばし、サッと水気を拭き取った。

「どこに――っと!?悪りぃ、着替え中か」

 一瞬だけ覗き込んで、すぐにアイオリアは引っ込んだ。
 水気を含む髪をある程度、布に吸い込ませたあと、幾重にも折り畳まれた布を持ち上げ、腰に当てる。するすると伸ばしながら、身体に沿うように、そして襞を作りながら、纏め上げ、ようやくアイオリアの前へと進みでた。

「すげーな、それ。どうやってんだ?」

 袈裟姿に目を丸めながら、前に垂れるようにした襞を手に取り、感心したアイオリアが呟く。

「ならば、見ればよかったではないかね」
「え、見てもよかったのか?……じゃなくて。ふつー裸見られるのは抵抗があるだろうが」

 少し声を上擦らせながら、怒気を含ませるアイオリアに「よくわからんが」とだけ答えた。

「ま、いいけど。それよりも、教皇はどうだった?どう感じた?シャカ」

 ぐいぐいと近寄るアイオリアに「鬱陶しいから離れたまえ」と手押しながら、椅子へと腰掛ける。濡れた髪に空気を送るように、手を差し入れ上下に動かしていると、アイオリアは浴室へと向かい、乾いたタオルを持って出て来た。
 そして私の背後へと回り、タオルで頭を包み込んだ。あまりにも自然な動作に一瞬、既視感に陥る。

「横着するなら、髪、切ればいいのに。いっそ丸坊主とか、どうだ?」

 アイオリアは大きな手でマッサージをするように動かしながら、丁寧に拭き取った。あまりの心地よさに思わずとろんとなりながら、「――が、悲しむから」と口走ってしまった。慌てて口を噤んだが、アイオリアには聞こえなかったらしく、「何か言ったか?」と暢気に聞き返してきた。ほっと胸を撫で下ろしながら、アイオリアの質問を思い出して答える。

「いや。なんでもない。私見だが……恐らくは過去にお会いした方ではない、と感じた」

 きゅっと髪先の水分を取り除いていたアイオリアの手が一瞬止まる。そして再び動き出し、そのあと両手で私の髪を持ち上げた後、タオルを肩にかけた。
 ひとつひとつの所作が懐かしい記憶を呼び起こして、目眩さえ起こしそうになる。

「……よく覚えているのだな、きみは」
「ん?ああ……今だから言えるけど。羨ましくて仕方なかったんだ。いつも風呂上がりにサガがやっていただろう、おまえに。すごーく、気持ち良さそうだったよな、おまえ。それに、本当に嬉しそうでさぁ、サガが。兄貴に俺もやってくれって言ったら、面倒臭いから坊主にしろ、と取りつく島もなかったな。時々、取り替えてくれないかと本気で思ったし、おまえにも言ったことがあったっけな?全力で拒否られたけどな」
「そうだったかね?覚えていない」

 それは嘘。覚えている。あの頃のことは全部。澄まし顔で平然を装いながらも、内心ではひどく嵐のように穏やかではいられなかった。あの人の名前を聞くだけで、こんなにも揺らいでしまう。恥ずかしいほどに頬が熱くなって、両足を引き寄せ、椅子の上で膝を抱え込み、膝頭に顔を埋めた。

「……じゃなくて。やっぱりおまえもそう感じたか。どうもおかしいな、とは思ってたんだ。俺らの預かり知らぬところで代替わり、ってのもあるか。女神不在の間は実質、トップだし。聖域の要である教皇の職務なんて極秘中の極秘、凡人には計り知れない機密があるんだろうな。突然の病死とかで空位にするわけにはいかないだろうから、すぐに座に就くような仕組みなのかも。だからこその仮面、なのだろうな」
「きみにしてはよく考えたほうではないかね」

 くるりと振り返り、まじまじとアイオリアを眺めた。疑心暗鬼にさえなったであろう、アイオリアにしては大人な意見に正直驚いたのだ。
 そうやって、ひとつひとつの理不尽さにも決着つけてきたのだろうか。