二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ネメシスの微睡み~接吻~微笑

INDEX|11ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

ネメシスの接吻 2



「申し訳ございません。何らかの手違いが生じたものと思われます」
「――もうよい。来ぬ者をいつまでも待ち続けるわけには行かぬ。今夜、万一訪ねてきたならば、できるだけ会おう。それまで奥にて籠る」

 何の因果か……面会の日はバルゴとしてシャカが目覚めた忌まわしい日と同じであった。
 長年の間、今日という日を封印してきたため、気付かなかったが、「そういえば、今日はバルゴの聖衣が下賜された日でございましたね」と従者の何気ない呟きによって、思い出してしまった。
 思わず、呪詛でも吐いてしまいたくなるような思いだったが、連日厳しい日程が組まれていたため、偶々相手の都合により、ぽっかりと空いたこの日を逃せば、それこそ2週間以上、会うことなど叶わなかったのだ。
 忌々しく思いながらも諦めて手を打ったが、約束の日時になってもバルゴは教皇の間に現れなかった。慌てた従者が先方に連絡を取り確認したようだが、バルゴはとっくの昔に聖域へと向かったという返事だったらしい。だが、それらしい人物が聖域内に入ったという情報もなく、煙に巻かれた事態となっていた。
 黄金聖闘士といえども、一介の聖闘士でしかない者が教皇との面会の約束を反故にするなど、未だかつてないことである。教皇に対する非礼というよりは彼らにすれば、約束を取り付けた自分たちに対する明らかな侮辱だとでも思えたのだろうか。
 滑稽なほど慌てふためき、そして憤慨していた。それを隠そうともしない有様である。ある意味、小気味良ささえ感じて、久しぶりに口元を緩めた。
 パラパラと捌かねばならぬ書類に目を通しては思考し、ペンを走らせていると、ふと声が聞こえた気がした。顔を上げ、耳を澄ます。

「――誰、だ」

 捨てたはずの名が呼ばれた気がした。この部屋でもなく、教皇の間でもなく、もっと離れた――だが、聖域を離れるほどでもない距離。意識を集中させ、その元を辿ろうとするが、気配は四散し、辿り着かなかった。

「気のせい、か」

 再び書類へと意識を戻し、時計の針をちらりと見れば、とうに夜半を過ぎていたけれども、眠気はまったくなかったこともあって、そのまま視線を書類に戻し、再びカリカリとペンを走らせた。




 いつの間にか夜明けとなっていた。椅子に深々と凭れ、僅かの間だけ眠っていたようだ。従者たちの声によって目覚めたあとは、いつものように浴場へと向かい、汗を流した。新しく用意された法衣は権威を誇るような深紅を基調としたものだった。
 今日は世界を牛耳る権力者たちとの面会が続く。上手く交わし、聖域にとって有利にことを運ばねばならぬ、僅かにでも気の抜けない、神経をすり減らす日であったことを思い出し、気を引き締めた。

「――では、これ以上のことは事務方と詰めていただくとして。お引き取りを」

 まるで機械仕掛けの人形のように、容赦なく時間を区切るように努めた。
 まだまだ話足りないといった顔を幾度もされながら、それでも淡々とこなし続けた。そうしなければ、時間など足りない。厄介な問題を押し付けようとする者もいて、スムーズに運ばないことも多々あり、幅を持たせていたはずの時間もきっちり使い果たし、予想通りに時間がずれ込んでいた。
 次の面談者との間で話し合う書類に目を通し、喉を潤す程度に短縮された休憩の合間、教皇の間の外へと繋がる扉でひどく存在感のある小宇宙を感じて顔を上げた。
 ざわざわと胸の奥底が波打つのを感じる。
 指先が震え、持っていた書類がパラパラと落ちたが気にも止めなかった。ふらりと立ち上がり、教皇の間へと向かう。早鐘のように打つ鼓動を感じながら、誘われるように意識は扉の外へと向かっていた。