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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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さくらの正体

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サユリは言った。
「私には自信がありませんし、それにアイドルなんて仕事、向かないと思います。はっきりいって恥ずかしいです」
「だよな、東大のエリートさんには。でも、金をどかっと稼ぎたいんだろう。周囲の目が心配なら、芸名で、身元は分からないようにしてあげる。それにこれから変身したら、今までの君を知っている者は見分けがつかないだろう」と団十郎。
でも、サユリは嫌だ。何だか、キツネか狸に騙されているようで納得がいかない。
「5千万円を即金で払えば納得がいくというのかい。まずは5千万円を払おう。それからは、歩合制だ。おそらく、君は5千万を差し引いても、1億は下らないほどの報酬が手にはいると思うよ」

サユリは、5千万円を父の会社に高級家具を購入する形で払った。丁度、輸入美術品のオークションをやっていて、数点の高級家具を最低価格に5千万円を上乗せする代金を払うという形だ。最低価格の合計は1千万円ほど、それが会社の仕入れ値と輸送などの経費を合わせた代金。6千万円を匿名のクライアントを装い払う。1千万円分は、別ルートで売却し戻す。実質上、父の会社に5千万円を払ったことになり、それがまるまる儲けとなる。

弟のフロリダ行きが決まった。

さて、芸名が必要になる。団十郎がつけてくれた。
「上野さくら」。サユリからさくらのイメージに変身するためだ。

数ヶ月後のデビューを控え、眼鏡をコンタクトに変え、ダイエットに励んだ。

上野さくら、公式発表では年齢は22歳から19歳となり、学歴は東大卒から高卒に。体重は50キロ。髪の毛は、短髪のストレートから、肩まで伸びるカールの入った茶髪のつけ毛。リボンにアクセサリ。手には花柄のつけ爪。顔は自然な美しさを演出しているように見せる厚化粧。ピンクとシルバーを基調とする衣装。いつも、ピンヒールにミニスカート、それがトレーとマークとなった。

話し方は、落ち着いた低めの声から、子供っぽく高めで舌知らずの口調。

テレビ初デビューの第一声は、「みんな、うえの・さくらです。よろしくーね」

さくらは、全てを計算し尽くていた。

デビューしてから3年が経っただろうか、上野さくらは、予想通り、引く手数多なトップ・アイドルになっていた。テレビでさくらの出るCMか番組がない日は、まずあり得ない。

上野さくらは、CMには、口紅などの化粧品、シャンプー、洗顔フォーム、チョコレートなどの菓子、海外旅行ツアーを宣伝するモデルとして登場。ブランド店の開業セレモニー、デパートのワイン披露イベント、新作映画の試写会などにマスコットとして呼ばれる。

テレビのクイズやバラエティ番組の司会アシスタントとして登場したり、ゲストとして登場して、にこにこ顔を披露する。台本通りの台詞を語り、アドリブでは、適当なおしゃべりをする。おしゃべりとは、まさにおしゃべり。おしゃれやダイエット、恋の悩みなどなど。10代から20代前半の若い女の子が共感しそうな話題が中心だ。

さくら、いや上原サユリが得意とする政治や経済の話題は全くない。そんなこととは無縁な女の子として振る舞わなければいけないからだ。それが売り物なのだ。読む書物といえば、漫画か携帯小説。そんな自分のファンの心理を理解するため、生まれてこの方読んだことのないファッション雑誌や漫画本や携帯小説を読みまくった。サユリにとっては苦痛であったが、それも役作りのため積極的にやった。

最近では、テレビドラマにも出るようになった。もっとも、コントかコメディで演技力は必要としない。かわいこちゃん、悪い言い方をするとパープリンギャルを演じるのだ。視聴者には、地でやっているとしか思えない演技をする。

デビューしてから、1年もしないうちに5千万円は返せ、その後、プロダクションにも、さくらにも、多額の儲けが入るようになった。

弟のケンジは、フロリダでの手術が成功、その後、現地の環境がいいということもあり、現地の高校に通い、卒業後、フロリダの州立大学に入学、健康で充実した日々を送っているという。

サユリは、家族には自分がアイドルをしていることは話していない。テレビや雑誌などに出るのだから、分からないはずもないのだが、そこは、うまく「さくら」と「サユリ」を使い分けている。神戸の実家に帰る時は、サユリはさくら特有のつけ毛を取り黒に染め直して短髪、メイクアップを取る。コンタクトを外し黒縁の眼鏡をかける。地味な服装、低めの声で落ち着いた話し方。両親のよく知る真面目で優等生なサユリに戻るのだ。これが彼女の地の姿。

さくらとは、全くの別人になる。テレビにアイドル「上野さくら」が出ているのを見ながらでも、サユリと同一人物であることに気付かない。両親には、東京では貿易会社に務めていると伝えている。田母神がアリバイのため知人の貿易会社に架空の社員を作りあげてくれた。

田母神は、サユリに実によくしてくれた。彼女を見込み、賭けともいえる大きな投資をして、大スターに育て上げてくれたのだ。そのおかげで彼女の弟の命は救われた。そして、彼女自身も、思わぬ自分の才能を開かせ、25歳という若さで、とてつもない財産を築くほどになった。貯金は、1億円近い。あのまま、財務省の官僚になっていたら、安月給で夜遅くまで働かされていたのかもしれない。

もっとも、田母神は強面の顔同様、実にやり手でしたたかな考えの持ち主だ。彼女なら、金儲けの道具になると見抜き、自らの利益のためにしたのに過ぎない。サユリは、田母神に感謝すると同様に警戒している立場でもあった。何度かプロダクション出入りしていて分かったこと、それは田母神が政界と黒いつながりを持っており、プロダクションの事業以外に田母神が持つ不動産やリゾート開発事業で便宜を図るような働きかけを行っている闇の世界のドンでもあるということだ。

そのこと自体、別段、驚くことではない。この世界の有力者なら、多かれ少なかれあること。サユリはある種の割り切りを持って接していた。

まあ、あと何年かすれば、自分の人気にも陰りが出てくるだろう。そうしたら、潮時だ。浮き沈みの激しい芸能界などにだらだらといるつもりはない。一攫千金である。そうなったら、田母神とはお別れだ。その後はどうしようかと、最近考え始めている。かわいこちゃんアイドルを辞めた後は? 今更、官僚にはなれないだろうし。だが、答えは見つかっていない。今すべきことは、その後のためにも、稼げるだけ稼いでおこうということだ。

半年前から、インターネット上で自分が司会をするトーク番組「さくらとトーク」を持つことになった。週に1回、原宿のスタジオにゲストを呼び、1体1でまったりとしたお喋りを披露、サユリは主に聞き手に回る。ゲストはいつも、年配の女優さん、作家、歌手、スポーツ選手、男優など。さくらとは、イメージ的にだぶらない相手を呼び、ゲストを盛り上げながらも、司会のさくらの個性も引き出す企画となっている。たちまち、視聴アクセス数は開始後、激増。さくらを支持する若い女性とさくらのおっかけをする若い男性の心を見事につかんでいる。
作品名:さくらの正体 作家名:かいかた・まさし