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市来編

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エピローグ




「俺と結婚でもするか?」

 昼食のパスタを食べていると、聞き覚えのあるセリフを凱が私に向って言い放った。

「へ?」
「顎にトマトソース付いてるぞ」
「わわっ!」

 慌てて鏡を取り出し、汚れを落とす。もー、急に変なこと言うから、思わずソースが飛んじゃったじゃない。
 入社して3年、私は25歳になっていた。

「これでよし、と。ていうか今なんか凄い事を耳にした気がするんだけど。また冗談なんだよね?」
「俺は本気だ」

 3年前とは違って凱は笑うことなく私を見つめ続けている。

「本当に? 本当に私でいいの?」
「お前以外に誰がいるんだよ」

 ぽろっと涙が零れた。まさか凱がこんな事言ってくれるだなんて思いもしなかったから。嬉しくて泣きながら何度も頷いた。

「お前は本当に面白いな。顔、凄い事になってるぞ」

 泣きまくってメイクはボロボロ。でも3年前とは私も違う。メイクなんて自分でも完璧に直せちゃう。といってもまだまだカレンの腕には遠く及ばないけれど。

 凱の事はずっとずっと好きだった。付き合う事になっても、私の方がいつも凱の事を思っていた気がする。だから凱から言ってくれた事が本当に嬉しい。
 これからもずっとずっとあなたが好き。

 
 その日の夜「ねぇ、私は凱の事ずっと好きだったけど、凱はいつ好きになってくれたの?」って聞いたら、少しだけぶっきらぼうに彼はこう言った。

「新作発表会で白波瀬社長とお前が知り合いだって分かった時、内心嫉妬してたな」

 って。
 それを聞いて、私はまた一つ笑顔をこぼした。





END
作品名:市来編 作家名:有馬音文