春日編
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あれから社長と会社のロビーで別れ、私は単身営業部へと乗り込んだ。
「あんた、うちの部署を希望したんだって?」
営業部のドアを開けた途端、春日雅の高圧的な言動に一瞬動きを止めた。
「はい、よろしくお願いします……」
何でいきなりけんか腰なのよ? そりゃ、まあ、昨日顔合わせた時から気に入られてないのは分かってたけどさ。だからってあからさまにこういう態度とるのって社会人としてどうなの? ちょーっと可愛い顔してるからって、営業でバリバリ契約取って来るからって、偉そうにされるの非常に嫌いなんですけど!
―――なんて心の中で悪態をつきながら、春日……先輩って呼んだらいいのかな? いや、でもなんか言いにくいから春日さんでいいや。一応ひとつだけど年上だしね。 に差し出された書類を受け取った。
「それ、新製品の資料。これから会議にあんたも一緒に出るように社長から連絡受けてるから、時間までにざっと目を通しといて。それから、あんたの席はそこ」
指を刺された席は綺麗に整頓されていて、机の上に携帯が置かれていた。
「机もパソコンも好きに使っていいから。携帯は会社からの支給品。会社と僕の携帯番号も入っているから、何かあったらかけて。他に何かいるものがあったら僕に聞くように……何か質問は?」
「ありがとうございます。えっと、質問なんですけど」
「なに?」
自分で何か質問はないかと聞いておきながら、私が質問と言うと眉間に皺を寄せて軽く睨まれた。でも質問があるんだもの、仕方ないでしょ!
ぐっと、春日さんの理不尽な態度への怒りを堪え、質問をする。
「私はいつまで春日さんの下について勉強させていただいたらいいんでしょうか?」
「僕が社長から受けた命令は、新製品が無事発売されヒットするまでだった。だから、当分は僕の言う通りに動いてもらうからね」
「分かりました……」
ある程度営業について勉強してから仕事をさせてもらうんじゃなくって、最後まで一緒に仕事しないといけないわけね。そして、この新製品をヒットさせられなかったら私は自動的にこの会社でお掃除の仕事―――いや、丁稚奉公―――。
「なに? もしかして怖じ気づいたりしてる?」
「し、してません! 気合いを入れてただけです!」
「ふうん。ま、どうでもいいけど。僕の邪魔をしたり足手まといになるようだったら、社長に言ってすぐに部署を変えてもらうからそのつもりでね」
「私、本気で頑張ります!!」
「気合い入れるのは勝手だけどさ、もう会議まであんまり時間ないよ? 資料読まなくていいの?」
私ははっとして、机に飛び移るように座り慌ててもらった資料をめくった。
この人の厭味に耐えなきゃ、私の将来は大きく変わってしまうわ! 言い訳は出来ない! やるしかないのよ!