小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

出張こぼれ話

INDEX|48ページ/54ページ|

次のページ前のページ
 


仕事で花巻空港へ向かったときのお話です。

その日は、とても風が強い日でした。
花巻空港は、別名風空港とも呼ばれ、風が強い時はすぐ欠航になります。
何度か尻餅事故もあったと記憶しています。
私は、札幌、千歳空港から花巻空港への飛行機に乗りました。
その時、修学旅行の坊ちゃん、嬢ちゃんたちが一緒に乗りました。
私は、前の席、坊ちゃん、嬢ちゃんたちはずーっと後ろの席に固まって座って
おりました。
キャーキャーとはしゃぐ声が聞こえてきます。
きっと、初めて飛行機にのる子も居たでしょう。

飛行機が、滑走路を加速し、飛び立つ瞬間。
キャー、ウォーと喚声が上がり、パチパチと拍手が湧き起こりました。

青春だなぁ。

今時の若い子たちの修学旅行は飛行機なんですもんね。
私の頃は、青函連絡船にのって、吐き気を抑えながら、それでも座敷席でみんな
でトランプをしたり、長い旅路がとても楽しかったのを覚えています。
今は、ぴゅ―っとひとっ飛びして、さーっと回って、またぴゅーっと帰ってくる
んですね。

先生が、「シー!みんな静かに、他のお客さんの迷惑になるだろ!」と
大きな声で生徒をしかっておりましたが。

(お前が一番うるさい!!)

と、思ってしまった私でした。

飛行時間40分程で着陸態勢に入ります。
しかし、今日はとても風が強く、飛行機がぐらぐらとゆれ、
20分くらいで、早くもシートベルトランプが点灯しました。

そんな揺れる飛行機は、あの子たちにとっては、ジェットコースターです。
きゃーきゃーと一層大きな声で悲鳴をあげ、騒いでいたのでした。

キャプテンからの放送が入りました。
「みなさん、今日は花巻空港が強風のため、着陸できない場合がございます。
その場合、千歳空港に引き返すか、仙台空港に向かいますので、ご了承ください。」

それから、飛行機は着陸態勢に入りました。
まー、揺れること揺れること、数百回の飛行経験を持つ私ですらこんな揺れは
初めてでした。

はるか下方に民家の屋根が、見えていたと思ったら、ストーン
と無重力状態となり、すぐ目前に屋根が迫ります。

1回目のランディングを失敗し、飛行機は再び上昇を始めました。
通常、このような場合3回のランディングを試みます。
それでダメだったとき、初めて、引き返すか近くの空港に行くかということ
になります。

1回目は、皆、キャーキャーと楽しそうでした。

2回目。今度は斜めに傾きながら、またもやストーンと堕ちてゆきました。
今度は、やめてー、怖いーという悲鳴に変わりました。
喜んでいる人など一人もおりません。

ここでキャプテンの放送が入りました。
「みなさま、当機はあと1回、着陸を試みます・・・・」

後ろから、
「えー、やめようよ。もう帰ろう!
 そんなにがんばんなくてもいーから!」
という叫びが聞こえます。

しかし、有無を言わせず3回目のトライが始まりました。
3回目になると、誰も悲鳴を上げません。
機内は「シーン」と静まり返り、皆固唾を呑んで自分の行く末を案じていた
のでありました。
私も、所有権のはっきりしない、手摺を掴んで身構えておりました。

地面がどんどん近づいてきます。
「あー、ぶつかる」
と思ったとき、飛行機はまた上昇を始めました。
3回目も失敗です。

結局、飛行機は仙台空港へ行き、無事着陸しました。
私はと言うと、客先との打ち合わせに間に合わず、そのまま千歳空港に引き返す
ハメになりましたが、
修学旅行の坊ちゃん、嬢ちゃん達の中には、泣いている子もおり、腰を抜かして、
両脇を抱えられながら降りる女の子もおりました。

きっと、トラウマになってしまったでしょうね。
かわいそうに。
最初に乗った飛行機がこれだったら、「なんて怖い乗り物だ」と思った
事でしょう。
もう二度と飛行機には乗らないかもしれません。

先生の背中に背負われ、タラップを降りる御嬢ちゃんの後姿をみて、

ナンマンダブ・・・・
祈らずには居れませんでした。


作品名:出張こぼれ話 作家名:ohmysky