出張こぼれ話
出発地北海道の天気は快晴だったにも関わらず、神戸の天気は雨。
そのせいで、飛行機の到着が十数分遅れる。
折りたたみ傘を忘れてはいまいかと、かばんの中をまさぐりながら、
僕は早足でホームへと急ぐ。
神戸空港駅で、三宮行きの列車に飛び乗る。
列車は比較的空いていて、空席が目立つ。
始発駅だからだ。
隣に気兼ねしなくても良い、一人掛けの席に座る。
(プシュー)
電車のドア閉まり、ゆっくりと動き出す。
ひざの上にバッグを抱え、雨の神戸を眺めながら、いつしかコックリコックリと
眠りの中へ・・・・
駅をひとつ、ふたつ、過ぎるうちに、車内が込み始める。
空席が全て埋まり、目の前に人が立ち始める。
ガラス越しにふと、おなかの少し膨らんだご婦人が見える。
(あ、妊婦さんだ。)
年の頃、30代後半、白いワンピース姿の女性。
席を譲ろうと、腰を浮かせ掛けた時、ある思いが脳裏をよぎる。
(まてよ、ただ太っているだけかもしれない。)
かなり、微妙だ。推定年齢から言って、初産ではなかろう。
中年太りといってもおかしくない程、全体的に肉感たっぷりなのだ。
(これ、もしただ太っているだけなら、かなり失礼な行動になるなぁ。)
上げかけたお尻をまた座席へ戻す。
(もう少し、観察が必要だ。)
半分寝たふりをし、薄めをあけながら、ご婦人のお腹の辺りをそっと伺う。
(に、肉なのか?・・・)
背中に冷たい汗がつーっと伝わるのを感じる。
(あ、赤ちゃんなのか?・・・)
ご婦人は、座席の背もたれに捕まりながら、携帯のメールに夢中だ。
(デ、デブなのか?・・・・)
もし、行動が間違って居た時のご婦人の気持ちを考える。
もし、妊婦さんだった時、席を譲らなかった自分への罪悪感を感じ、
何度も腰を浮かせ掛ける。
(き、決め手に欠ける・・・・)
そうこうしている内に、列車は終点の三宮駅に到着。
(ああ、神様、彼女がただのデブでありますように。)
涙で前が見えなくなるのを堪えながら、ひたすら彼女の後ろすがたを追いかける
のでした。・・・・なんつって。
小説風に書いてみました。(実話です。(^_^;))