友の話
僕は、その頃、静岡県の伊東市というところに住んでいました。
父は早くに他界したので、父のことはよく覚えていません。母は縫い物が得意だったので、近所の人たちから頼まれた着物を縫って家族を養ってくれていました。
兄弟が4人いましたが、ふたりの兄とは血が繋がっていないことを知ったのは18才をすぎてからでした。
子供の頃の僕は、人見知りが激しくて、今も消極的な性格ですが、友達があまりいなかったです。
いつも、ひとりで遊ぶことが多かったですが、2年生のとき、すぐ近所に、上野春男くん(仮名)という子が引っ越してきました。
僕と同じ小学校に通うようになって、家が近いこともあり、仲良くなりました。だから、僕にははじめての友達でした。
でも、体が弱くて、いつも休みがちでした。
どんな病気かは、母が教えてくれました。
「春ちゃんは結核やからね。うつるで遊んだらいかんよ」
と、母は言いました。
僕は、結核がどういう病気か知らなかったので、その内によくなってまた学校に出てくると思っていました。
でも、一箇月がたっても、来ないので心配でした。
それから、何箇月かすぎて、先生が言いました。
「春男くんは大変重い病気で、病院にいます」
僕は また一人になりました。
ある日の朝、、僕が教室に来たとき、同じ組の子が校門の方を指さして、
「春男がきた」
というので、僕も、校門の方を見ると、浴衣をきた春男君が立っていました。
僕は、嬉しくなって、カバンを置くとすぐに外に出て校門のほうへ走っていったんですが、春男君はどこにもいませんでした。
同級生はみんな、校門のところに立っていた春男くんを見たと言ってます。
うちに帰ってからわかったことですが、僕たちが春男くんを見た時間、春男君は危篤状態でそれからすぐに亡くなったそうです。
春男君は別れの挨拶に来たのかもしれない。
今でも思い出すと怖いとは思いませんが不思議で仕方ないです。