遠い遠い記憶
そして、街の通りの様子。暗い夜に灯りが灯った状態を写している。テレビを観ている人々。コンピュータらしきものを扱う人々の姿。工場で機械を動かす人々の姿。どうやら電気を使って生活していることがうかがい知れる。実に高度な文明だ。その高度な文明と共にとても豊かな生活をしていたことを伝えているらしい。
「すごいぞ、すごいぞ。まさにオーパーツだ。かつて、現代に匹敵する高度な文明が古代に存在したんだ」と興奮気味のインディ。
リヒャルトは、インディと同様に興奮を感じていたが、同時に思った。そんな文明がなぜ、現代まで続かず消えて、こんな遺跡として発見されているのか。古代から現代の間、いや古代から我々の知りうる有史の始まりまでの間に何が起こったというのか。
すると、その次の写真レリーフに目が留まった。これは火山の噴火か。大きな煙の柱が立っている。その下に岩のようなもの。はあ、この辺りに火山はあったかな。どんな火山かと思い、煙の元である写真の下の方を見ると、それは火山にしては、形が変だ。山にしては形が人工的なような。山形というより、幾何学的な台形に近いような。となると、何か人口の建造物。それが大爆発を起こした?
そして、その隣の写真を見る。驚きの写真だ。苦しむ人々の表情。最初に見た子供たちとはうって変わって重い病気にかかったような子供たちの表情だ。実に苦しそうだ。子供以外に、大人の病人も移っている。そして、その子供や大人を看ながら涙する人々。何が起こったのか。その爆発が影響したかのような印象を与える。
「きっと火山爆発で被害を受けた人々なんだ」とインディ。
「でも、この辺りには火山はないと思うが」とリヒャルト。
「かつてはあったのだろう。もう死火山となって地中に埋もれたのかもしれない」
「そうか、それは考えられるが、この病人たち、火山の影響という割には、怪我はしてなく、何か病気にかかったように見えるんだが」
レリーフから見る限り、怪我人というより、内臓をやられた病人のように見える。
「火山から有毒ガスが撒かれ、やられたんだよ。きっと」
「そうか、それなら説明はつくな」
「うわあ」とクルーの叫び声が聞こえた。
「何だ?」とインディがきくと、クルーはそこで何かを見つけたらしい。
「これです。これを見てください」
ガラスケースのようなものに何かが入っている。灯りをそこに向け照らし、はっきりと姿を映し出すと。博物館でみられるようなガラスのショーケースに、赤ん坊らしき体が横たわっていた。人形や作り物ではない。本物だ。だが、その赤ん坊、どこかが変だ。片腕がない。それに足が曲がっている。目が3つある。奇形児か。よくよく近付いてみると。それが剥製ミイラであることをインディが見分けた。
「見てください。他にも」
赤ん坊に限らず、山羊のような家畜の奇形の剥製ミイラがある。頭が二つに割れていたり、角が3つあったりと。魚に鶏なども。えらや足が多かったり少なかったり。
奇形の乳児と動物の剥製ミイラ。どうして、そんなものを置いているのか。どうして、そんなものを見せつけているのか。こんな奇形が発生したことを伝えたいのか。人体に影響を与えるとても深刻な事態が起こったということではないのか。こういう類の奇形は遺伝子レベルで起こる。単なる毒物中毒だけでは考えられない。
「これは、お墓なのだろう。いわば、奇形で社会に受け入れられることのない子供や食料にならない動植物をここに慰めのため葬ったのだろう」とインディ。
「しかし、どうして、こんな奇形が発生したんだ?」
「奇形児はいつの時代でも存在する。人口のある一定の割合で、動物でもそうだろう。ここに葬られているのは、少ない確率で不幸にもそうなったものを集めて葬ったのさ。ただ、それだけのことだろう」
「でも、あえて剥製やミイラにする必要なんてあったのか」
「もしかして、珍しく標本にしたのかもな。いい趣味ではないが」
そんなに単純なものだろうか。ここに敢えて、こんなものを置くとは、それなりに意味があってしかるべきだと思うが。
奇形が発生する病気とかが発生したというのではないだろうか。普通、奇形が出るというと、化学物質がばらまかれ、それが人体に入り、妊婦などが取り込むと、それにより胎児の体に影響が及ぶといった場合だ。ベトナム戦争での枯れ葉剤散布や、現代でも問題になる農薬、水銀、医薬品の副作用などが考えられる。それ以外に考えられるのは、、、
「おい、もう一つ部屋があるみたいだぞ」とインディが叫ぶ。
今度は分かりやすくドアがある。そのドアは鋼鉄か鉛のようなものでできていた。頑丈そうで、その上、錆び付いているが開けられそうだ。ハンマーで叩く。十分後。鋼鉄のドアが開いた。
中に入る。わ、足を踏み入れるとまず見えたのが床に白い布のようなものが散乱している光景だ。何だ? 灯りを照らして見る。手袋をした手で白い布をつかみ、採り上げる。あ、これは、とリヒャルトは思った。見覚えのあるものだ。それもごく最近の記憶である。
「おう、これは宇宙服ではないのか」とインディが叫んだ。
白い布は衣類のようだ。それも頭から足先までをすっぽり覆う服のようだ。なので、宇宙服にみえるのだろう。こんな古い時代から今まで白い布は色褪せてなく、形も整っていて丈夫な繊維でつくられていたのがうかがえる。そこからも失われた文明の高度さがみてとれる。
「なぜ、宇宙服と言い切れるんだ」とリヒャルトは突っ込んだ。リヒャルトにはそう思えなかった。
「壁の絵に星マークと共に宇宙服を着た人間が描かれていただろう。まさに、この宇宙服を着て宇宙へ旅立ったものがいたということさ。もしかして、ここはロケットの発射台だったのかもな」
「しかし、ならばなぜ、こんな地中深くにあるんだ」
「そ、そうか、それもそうだな。だけど、ここで、宇宙まで行けたことを証明する文明の遺物を、ここに保存したかったからだろう」
「何も、こんな地中深くまで持って行かなくてもよかったんでは」
「何を言っているんだ! エジプトのツタンカーメンの墓や、他の王の墓でもそうだろう。地中深くに埋めておかなければ、盗賊などに大事な財宝を奪われてしまう。それを防ぐためにも、地下の保管場所というのは必要なんだ」とインディは悠々しく語る。
「地下の保管場所」という言葉にリヒャルトは、びびっときた。まさか?
「おい、また、扉があったぞ。大きく頑丈そうな扉だ」とクルーが、そこに照明を当てる。頑丈な金属製の扉があり、扉の上に、絵が描かれている。これは、最初にみた壁画と同じく怖い顔をした道化師が、同じく手招きをしているジェスチャー。
「ウエルカムされている。やっと財宝のありかにありついたねと」とインディ、自信ありげに言う。
リヒャルトは、床を見下ろした。白い布の衣類以外に、何か落ちていないかを探った。すると、ある錆び付いた機械を見つけ拾い上げた。片手で持てる大きさと重さだ。よく見ると、計器のようだ。ぼやけているが、針と目盛りのようなものが入っている。何だろうと思いながら、はっと、思いついた。自分の持ってきた計器類の中に類似品があるからだ。
「インディ、本当に、この先は財宝があるのか」と不安げな表情のリヒャルト。