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フォーゲットミーナット ブルー【第6話】

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【第6話】


両親に「友達と暮らす」と言ったら「好きにすれば?」と、特に関心もない様子でOKを出してくれた。
もう慣れてる。幼い頃から、あまり構ってもらえなかったもの。
私は荷物のまとめ、家を出た。そして結衣との生活をスタートさせた。
結衣との生活は夢を見ているようだった。一緒においしい食事をして、一緒に笑い合う。特別なことをしているわけじゃない。ただ一緒に時間を共有するだけでよかった。
私は結衣とのこの穏やかな関係を時折怖いと思うこともあった。穏やかさなど、幸せなど、感じたことがなかったから。いつか結衣に飽きられるのではないか、嫌いと言われるのではないか……この理想的な生活の裏は、不安だらけだった。

「恵里に紹介したい人がいるの」

ある日、結衣は突然言った。それは朝食の最中で、私はコーヒーカップをテーブルに置いてゆっくりうなずいた。

「恵里もきっと仲良くなれると思うよ。すごく優しくて楽しい人なの」
「うん」

私は結衣の知り合いなら、絶対良い人だと思った。もしかしたら、その知りあいと仲良くなれるかもしれないと、期待してしまった。結衣は昼過ぎに家まで来てくれるから……と嬉しそうにほほ笑んだ。私も微笑み、うなずいた。
……インターホンのベルが鳴ったのは、ちょうど時計の針が午後の1時をさした頃だった。結衣は駆け足で玄関に向かった。私は少し緊張していた。結衣以外の誰かとプライベートで出会うのは久々のことだったから。

「じゃーん。紹介します! 私の彼氏の、山西功一君です〜」
「ども。お邪魔します」

あ、と思った。何かが崩れる音がした。
目の前に現れたのは、優しそうな、長身の男性。私は少しの間、呆然とし、言葉を発することができなかった。
笑え。笑え……! 私はかろうじて口角をつりあげた。きっと引きつった表情をしているだろう。だけど、これが精一杯だった。

「あの……私、お菓子買ってきます……」
「いや、おかまいなく!」
「いえいえ。ちょっとの間、二人でゆっくりしといてください。近くにあるケーキ屋さん、すごく美味しいから、買ってきますね」

私はニコッと微笑んで、足早に玄関に向かった。背後から「良い人そうだね?」と結衣の彼氏の声が聞えた。
玄関を出て、ドアを閉め、私はその場に崩れ落ちた。涙が次々とあふれ出し、止まらなかった。
あぁ……そうか。私は結衣のことを心から愛していたんだ。やっと気付いた。
私は友達というラインを超え、報われない恋にはまってしまっていたのだと………。
少しよろめきながら、私は立ち上がった。ケーキ屋に向かわなくちゃ。笑顔で、嘘でごまかして、私は結衣と彼氏の前でうまく演じなければいけない。その場を楽しむふりをしなければいけない。
私は結衣と離れたくない。だから嘘でもなんでもいい。結衣が私に望む“友人”として振る舞えば、そばに置いてもらえる。
涙で濡れた頬を、シャツの袖でぬぐった。私はどこか空虚な気持ちを抱いて、ケーキ屋へ向かった。


【続く】