Guidepost
05.友達付き合い
「なんでこんなことに……」
三弥は内心でボソリと呟いた。声には出せなかった。だってなんか……嬉しいというより……怖い。
そう思いながら思わず両手で持ってしまったコーヒーに口をつける。
そんな三弥の両隣には知らない女子が囲っている。
ここはカラオケだった。そこそこの人数だったため、部屋は大きな部屋を。そしてそのためソファーではなく丸い椅子がちらばっていた。おかげで三弥の周りに幾人かの女子が座る事に。
そもそもなぜこういうことになったかというと、琴菜が廉冶にあまりにも煩かった為、である。
三弥に会わせろ、だの、他の女子も喋ってみたいと言ってるだの、廉冶的に対しておもしろくもなさそうな事だったので適当に受け流していたのだが、あまりに煩い為とうとう分かった、と言うしかなくなった。
そして陸斗や有紀、亜希を誘った上で、三弥に声をかけた訳であった。
陸斗は廉冶と同じく面倒がっていたがこれまた廉冶と同じく琴菜に強引にせまられ負けたらしい。有紀と亜希は「女の子にミヤちゃんかー!」とやたら楽しそうにしていた。
そして三弥はとまどっているようではあったが廉冶がいるなら、と頷いて今に至る。
女子は8人ほどいた。廉冶が「多いんだよ!」と琴菜に文句を言うと、「これでもなるべく少なくしたんだから!」と返された。
三弥がいるというレアな事実以外に、廉冶達4人は女子から人気があるようで、人数を抑えるのが大変だったらしい。
そして最初は皆は適当に座っていたのだが、こそっと隅に座ったはずの三弥のもとに、現在3人の女子が群がり何かと話しかけていた。「はぁ」などと辛うじて受け答えはするものの、こういった事が全くもって初めてな三弥は本気で誰か助けて状態であった。
そんな三弥の前に、ふと廉冶が座った。
「楽しそうだな?保志乃?」
ものすごく良い笑顔でそう言ってくる。
実際、とてつもなく困っている三弥を見る分にはこちらも楽しいと廉冶は思っていた。
「えっと……」
そうとだけ言った三弥の顔は本気で困った顔をしていた。
あーマジオカシイ。うん、こういった三弥を見るのは好きだ。楽しい。……はずなんだが。
だがなぜかイライラする。なんだコレ。
そう思いながら、何気に手を伸ばして三弥の頭をくしゃくしゃ、とだけして、歌いたい訳でもないのに本を手に取り歌を選ぶ振りをする。その横に琴菜が座り、デュエットしよう!などと言ってくるのが妙にメンドクサイ。
そして頭をくしゃ、とされた三弥に、更に女子がなぜかキャーキャー言っているのを面白くなさげに見ていた。
そんな光景を陸斗はふーん、とばかりに見る。
「ちょっと女子!ミヤちゃんばっかりに集まっちゃったら俺ら寂しいじゃんー」
「そうそう、俺らも相手してくんないと!」
亜希と有紀がそういいながら三弥と女子の間に割って入ってきた。女子達は「えー?」などと言っているが、三弥は明らかにホッとしたような顔をしている。
「ねーねーミヤちゃんもなんか歌おうよ!」
「え、あ、俺、歌はちょっと」
「えーなんでー。いいじゃん、楽しいよ?」
「でも俺、歌何も知らないし……」
「「えー今時歌何も知らないって何それ面白い!!」」
「うるさい馬鹿組。そんなに歌いたきゃ、俺が一緒に歌ってやる」
声をそろえて楽しそうに言った2人に、廉冶がニッコリと言った。
「「ってレンジの目が怖いー!!」」
その後カラオケを出るととりあえず他の女子達は帰って行った。
いつものメンバーに三弥を加えた6人でファミレスに入る。
「あ、そうそう、あらためてよろしくね、保志乃くん。ちゃんと自己紹介もしてなかったよね、あたし、方坂琴菜!」
「あ、よろしく、方坂さん」
「ふふ。保志乃くん、ほんと人気だったね!」
琴菜が三弥にニッコリと笑いかけた。三弥は慌てて否定した。
「え?いや、人気じゃなくて……多分珍しい物でも見る感じだったんだと……」
だってこんなつまらない俺が人気な訳、ないでしょう?
きっとまたいつものようにからかわれていたんだと思う、と三弥はひっそりとネガティブを発動していた。いつもだったらそんな三弥にすかさず気付いて笑いをこらえている廉冶がなぜか大人しい。
「レンジそういえばさっきから基本無言だな?どうした?」
「……あ?別に?」
陸斗がそう聞くと、廉冶は頬杖をしたままそっけなく答える。
「あー!きっとレンジったらミヤちゃんがモテモテだったから拗ねてんだよ!不潔!」
「自分だけのものにしたいのねー、いやらしいー!」
「え、ヤダ、レンジったら、あたし差し置いて、そうなの!?」
有紀、亜季が楽しげに言った後で琴菜までもが楽しそうに突っ込む。
廉冶はそんな3人をジロリ、とにらんだ。
「んだと?何ふざけた事ぬかしてんだボケェ!ばらすぞ!」
「っえ?」
そしてそんな皆のやりとりと、廉冶をもの言いを聞いて、何気に三弥がびっくりしている。
「ほらほらレンジー、ミヤちゃんが怖がってるじゃんか!そんなどSの傍なんかいないで、こっちおいでーミヤちゃん!」
有紀がニッコリと三弥に笑いかける。相変わらず三弥はよく分からない、といった表情をしており、そして廉冶はますます有紀をにらみつつ不遜な笑みを浮かべる。
「おい、その辺にしとけよ?レンジがマジギレすんぞ。ああ、保志乃くん。悪かったね、琴菜が無理やり誘った上にこんな馬鹿ばかりで。」
陸斗が三弥に笑いかけた。三弥は慌てて答える。
「いや、誘ってもらえるなんて、俺はすごく嬉しいし……」
「ヤダ何この可愛い子!」
「だねー、ほんと予想を超えるー。可愛い可愛いー」
三弥はそんな軽口をたたく有紀と亜希をポカン、とした顔で見た。そのあまりに唖然とした顔に、不機嫌そうだった廉冶もとうとう噴き出す。
「保志乃。こんな馬鹿ども、ほっとけ。相手にすんな」
そう言ってまた廉冶は三弥の髪をくしゃり、とした。すると「え?相手にするなって……」と困ったように三弥は廉冶を見上げる。
「きゃあ、ヤダ!何その構図!ちょっともうレンジったらどこにそんなネタ隠してたのよー!」
なぜか彼女であるはずの琴菜が妙に盛り上がっている。廉冶は不可解なものを見るように琴菜を見た。
「は……?なんだ、ネタって……?」
「琴菜……」
陸斗も呆れたように双子の妹を見ていた。有紀と亜希は妙に楽しそうに「だねーコトちゃん!」などとノッているが。
そして三弥は相変わらず遠い国の人を見るかのように困ったような笑顔を見せて黙っていた。