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「あ、ごめん。斉藤にとっては何でもない事だもんね。でも俺にとっては凄いびっくりするし、嬉しい事なんだ」
「あ、いや、そっちじゃなくて……。……誰が話しかけてきたんだ?」
「ん?ああ、えっと……知らない、人、かなぁ……」
「…………」
普段は愛すべきその性格が、今ほど疎ましいと思った事は、ない、と廉冶は思った。
「……どんな相手?」
「ん?ああ。いい人そうだったよ。すごい運動出来る人みたい。委員にはなったけど、球技大会も出るつもりだって言ってた」
「そ、うか」
なんていうか、きちんと説明してくれているというのに、この物足りなさ……っ。
俺が聞きたいのはそんな事じゃなくて、だな……。
「そういえば方坂さんとかは?」
だがそのまま話題を変えられてしまった。そしてそのままとりとめのない会話が続く。
なんていうか、落ち着かない、などと思っていると、三弥がまた話題を戻してくれた。
「そういえば、明日、球技大会で何の球技選択するか決めてもらおうと思っているんだ。斉藤は何するつもりなの?」
「あ?そうだな……別にこれといって……まぁ去年バスケで出たし、それでいいかな」
「そうか。きっと上手いだろうなー。ほんと俺、そういうの苦手だから羨ましいよ」
三弥はニッコリと言った。
体育での三弥の運動っぷりを何度も見ているが、全くもって運動神経に問題はなさそうなんだがな、と廉冶は思った。
まぁ、例のネガティブ思考の発動だろうな、と少し笑っていると、三弥が続けた。
「そういえばその話しかけてきてくれた彼はバスケ部なんだって。で、ほら、部活でその球技してる人は違うのを選ばないといけないじゃない?だからバレーするって言ってたよ」
彼。
……よし、今年はバレーだな。
廉冶は、見る人が見れば「怖いヤバい」などと言われそうな、真黒な笑みを浮かべ、そう思った。