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08.彼女という名の鎖



気付けばもう好きだった。
兄である陸斗の親友であり、そして幼馴染の廉冶。
憧れの何でも出来るかっこいい幼馴染から、好きな人に変わるのはごく自然な事。
口では酷い事とか言うのに、その目は……とても優しかったりする。



「おい。コト。お前早く食えよ」
「えーそんな急いで食べちゃったら味わえないじゃないー。ていうかなんでレンジは食べないの?」
「んな甘いもん、いるか。くそ、ここは落ち着かん」

新しく出来たケーキ屋さん。
色んな種類の、一切れ一切れがすごく大きなケーキに釣られて、周りは女の子ばかりだった。そんな中琴菜に連れられて来た廉冶は、ただでさえ目立つ容貌が更に目立っていた。
忌々しそうにコーヒーを飲んでいる姿ですらかっこいい。

「だめー。だって約束だもん」
「あーくそ。で?うまいんか?」
「うん!」
「そうか」

そう言って廉冶は、琴菜が大好きなあの優しい目を浮かべ、琴菜に笑いかけてから、またコーヒーを飲んだ。
琴菜は黙ってケーキを食べ、そのままフォークを口にしたまま少し俯く。

赤くなっている顔が見られませんように。
廉冶の重荷になりませんように。


……ずっと憧れて好きだった幼馴染。そんな廉冶にはいつも彼女がいた。
でも高校に入ってしばらくしてから、またそんな彼女の1人と別れたと知った時、琴菜は思いきって廉冶に「付き合って欲しい」とお願いした。
廉冶の驚いた顔を見た時、ああ、やっぱり自分は彼に、せいぜい親友の妹くらいにしか思われてなかったんだろうな、と改めて実感した。
少し困ったような廉冶の表情に気付きはしたが、琴菜は諦めたくなかった。かと言って重い女だとも思われたくなかった。
「お願い、お願いだよー」といつものような調子で、だが廉冶に否定的な言葉を挟む隙を与えずに頼みこむように言った。
そして「分かった」と言ってもらった時のあの嬉しさったら……本当に幸せだった。

2人で陸斗に「付き合うことになった」と報告した時は「そうか」とだけ言われた。
だけど家に帰ってから、「いいのか?」と聞かれた。それだけで琴菜は陸斗が何を言いたいのか分かった。
……廉冶が琴菜をどう見ているか。鋭い陸斗にだって分かっていただろう。
それでもコクン、と頷くと、陸斗は黙って琴菜の頭をポン、と優しく撫でてから自分の部屋に入っていった。

大好きな廉冶。
そんな廉冶と付き合えるだけでも嬉しかった。
それに、もしかしたらいつか、本当にもしかしたらだけれども、好きになってもらえるかもしれない、などと思っていた。

そう。
いつか。

「最近なんか面白いヤツがいんだよ」

そう言っていた時は、ふーん、としか思わなかった。「面白いって、どう面白いの?」などと聞いただけで特に気にも留めてなかった。
高2になってしばらくした頃、廉冶に出来た「お気に入り」。
またいつもの如く、適当に相手したり適当に楽しむような、そんなものだと思っていた。もともとあまり他人に興味を持たない人だし。
実際たまに琴菜に教えてくれる話は「なんか金魚に話かけてた」とか「ありえんくらいのネガティブスキル発動してた」とかそういったそっけない観察記録みたいなものだった。
いったいどんな子なのだろうかと多少は思ったけれども。

でもふと気付けば、琴菜や皆と一緒にいる事が少し少なくなってきているような気がした。
ある日、また携帯を切っていた廉冶の文句から始まった会話で、廉冶が気にしている相手が廉冶と同じクラスの男子だと初めて知った。
聞けば自分も友達から聞いた事のある名前。凄く見た目がいい男子。
とても気になった。
……腐的な意味で気にもなったけれども……あの廉冶がしょっちゅう構うような人って、どんな人だろうか、とただ純粋に興味を持った。

何度も会わせて欲しい、と廉冶にお願いしてようやく会えた三弥は、確かにとても綺麗な人で、そしてとても控えめで優しそうな人だった。
廉冶が言ってたようにどこか少し後ろ向きな考えをする人だったがそこがまた面白くて、琴菜も三弥の事がすぐに好きになった。



でも。

……ねえ、廉冶。
あなたは気付いてる?

いつの頃からか、あなたの瞳が保志乃くんを映す時、とてつもなく優しい、そして愛おしいものを見るような目になっている事に……?


琴菜は黙って顔をあげ、廉冶を見つめた。
この間、今まで何もしてこなかった廉冶に、思い切って「キスして」と言ってみた。
廉冶は少し驚いたような顔をした後、あの優しい目を向け、そして優しく額にキスをしてくれた。
額、に。

「ん?どうした?」
「……ううん。何でもない」

どうしようか。
こんな幸せなひとときを、やっぱりあたしは失くしたく、ない。
ずっと願ってやまなかった、廉冶との大切な毎日。そんな日々を、あたしは失いたくない。

でも苦しい。
とてつもなく胸が苦しくなる事がある。

ねえ、コトナ。
あなたはこれからもレンジの優しさに甘えて、自分やレンジの気持ちから目をそらしたままでいるの?
レンジの優しさを利用して、レンジの気持ちを犠牲にさせたまま、のうのうと過ごすの?

……どうしよう、か……?


作品名:Guidepost 作家名:かなみ