white morninng
静かな夜。白かったり青かったり赤かったり、星は光る。付けっぱなしのツリーの小さな灯りと共に。
暖かいベッドの中で冷たい足同士がすり合うようにぶつかったことを夢の中のふたりは知らないだろう。時計の針は夜の峠をとっくに越えていることを示す。その針の動く音と、深くゆっくりとしたリズムを繰り返す寝息だけが、この部屋にそっと響く。何の変化も伴わないとしても、時間は止まらない。夜は朝に向かって変わらないスピードで動いていく。夜はいつか終わるのだ。
ふたりの目蓋が落ち、明日はどうしようか?の一言から始まった会話も途切れて、眠りにつく頃絡まった指。まだ解けていない。それはきっと朝までずっと。
空の色は濃く、深く、沈んでいく。
空が白みだす。深い藍色からのグラデーション。月や星はだんだんと姿を薄くし、空へ溶け込んでいく。太陽が顔を出すまで、きっとそう長くはかからない。夜の終わり。朝はもうすぐそこまでやってきている。時間の狭間、冷たい空気が街をより一層静かにさせる。
寝静まった街に空の魔法。
窓ガラスにちいさな、ちいさな白い星がひとつ、ふたつ。けれど、カーテンに仕切られた部屋の中、ましてや夢の中のふたりは何も知らず。この部屋の中は何一つ変わっていない。ツリーのてっぺんの星はやわらかく輝いている。
曖昧な声が名前を作るとそっと空気を揺らした。名前を呼ばれた彼は優しく微笑む。広い夢の中で、ふたりが出会った瞬間。
指が解けた。
先に起きた黒のパジャマの彼が、ベッドから降りる。大きな欠伸。目を擦りながら、寝癖のついた髪を指で梳く。知らず知らずのうちに癖になったであろう一連の動作。そこにまだ眠ったままの彼の顔を眺める、という新たな項目が増えたのはいつのことだったのだろう。
ゆっくりとした足取りで窓の前まで行くとカーテンを引いた。冷たい空気が肌に触れたことと、暗い部屋に一気に入りこんだ眩しさに瞬きが繰り返されている。やがてぼんやりとした視界が晴れると、目の前に広がる景色に溜息に近い声が出た。そして、布団を被り枕に顔を押し付けてもう一度夢の世界へ戻ろうとしている人物を振り返り、ベッドへ駆け寄る。抱えてた眠さなんてどこへやら。ねえ!と、布団をバサリと剥がして、むにゃむにゃとしっかりとしない口調で自分がいかにこの眠りを手放したくないかを語りかける人物の肩を揺すった。
(この景色を早く見せてあげなきゃ。一緒に見たい。外に出てみるのもいいかもしれない。パジャマのままで?ちょっとくらい、今日なら許されるかな。いいから早く起きて。)
「すごいよ、起きて起きて、」
白く塗られた街、やわらかな冬の太陽の光に照らされて銀色に輝く特別な朝。
さあ、素敵な一日が始まる。
(09/12/24)
作品名:white morninng 作家名:MUGi