運命主義の鉢植え(4/21編集)
「ねねっ、今日はスッピーにプレゼントがあるんだー!」
あれから結構な日にちが経って。心の部屋の隅っこに存在すら忘れていた風景は、電話越しの声と共に色彩を帯びて記憶に去来した。
「なあに?」
「来たらわかるよー」
家路を辿るように、よく知った道程に何故か切なくなる。
――春は、始まりの季節なのに。
そんなことを、ふと思い出した。
……あれ、あの子がわざわざ玄関で待っているなんて珍しいじゃないか。
そうして引っ張られるように庭で待っていたのは、久しぶりに見せた満面の彼女の笑顔。
そして、吹き渡る春の生温さ、押し付けられた鉢の中で咲き誇る――満開の蒲公英。
「エイプリルフールにー驚かせようと思ってさー」
「あんま関係ないけどぉ――」
呂律の回らない口調で初めて、彼女が珍しく照れているのだと気付いた。
「ねぇ、」
春一番の強い風で舞い上がった、蒲公英の花びらを追って思わず見上げた空。
澄んだ天盤に対してどうしてか、目の前の彼女ばかり連想させた。
ああ、私にとって彼女はあまりにも果てしない存在。
色とりどりの虹色に光る花々に、目の前の明るい色。
「どこにも、いかないでくれ」
大声を出した後でもないのに、私の声は掠れていた。
キリリと胸が苦しくなって、眼元が熱い。
「やだなー行くわけないよ、今日のスッピー何かへーん」
不意に抱きしめた肩越しにのほほんと呟く彼女の声は、どこか震えていた。
永遠はきっと、おそらく相容れない場所にあるのだろう。
けれど、はじまりとおわりの季節に、それが少しだけ見えるらしい。
「いくわけ、ないよね」
来年も再来年もこの季節は、あの子の庭に満開の蒲公英が咲き誇っているだろうか。
作品名:運命主義の鉢植え(4/21編集) 作家名:狂言巡