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VISION 1-8

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「こいつがいなくなれば夢ってことだ。とりあえず見境は付く。夢で目覚めたらじっとしてればいい」
指差された白い毛の動物は、ひたすらにニンジンの欠片をかじっていた。
「ウサギって夢見ないんだっけ」
「そういうことなんじゃないか?おまえは何も飼ってないんだったか」
「何も」
春は、ちょっとしたことで死んでしまう小動物の世話が苦手だった。エサの種類、温度、衛生管理やらのせいで、過去に何度も彼らを土に葬っている

。なぜそう敏感なのか春には理解できなかった。
そしてここで咄嗟に出たのは、全く中身の無い発言だった。
「俺もちょっと怖くなってきたな。今すぐ飼えるのってあるのか?」
涼は春の小動物嫌いを知っていたので、ああこれは本意じゃないとすぐに見抜いた。
「じゃあアリとかダンゴムシとかが」
涼は鼻で笑いながら体を起こした。
「冗談だよ。滝川からハムスターを貰えばいい。電話してみようぜ」
「たきがわ!?そんなもん飼ってたのか」
ははあと頷く春は首を振り、「そうじゃなくて」と手のひらを出した。
「俺は飼えないって。世話が下手だから」
「落としたり踏んだりしなけりゃ大丈夫」
「誰がんなことするんだよ」
「おまえみたいな奴」
春は口をすぼめた。
「おいおいびっくりするじゃないか、冗談ばっかり言うなよ君」
「びっくりしろよ、冗談じゃないんだから」
二人で息を合わせて笑った。いつものように笑いを取るタイミングはぴったりだった。
ともかく、嘲笑しながら毒を吐く涼を見て、春は心から安心した。


「とりあえず電話だけ入れておく」
滝川は、春と涼のクラスメイトである。
あまり目立つ存在ではない。しとやかな黒髪と凹凸のない白い顔はそれだけで冷たく静かな空気を醸し、
見かけどおり活発な性格でもない。
どうやって話しかけたらよいのか、春はとある講義のグループ演習でずいぶん悩んだものである。
それでいて涼がさらりと彼女の名を出したということは、何を意味するのか。
「なんか言ったか?」
携帯を頬に当てている涼が春に眉をひそめた。どうやら妄想が口から漏れていたらしい。
「なんでもない」
数秒の沈黙の中、滝川を呼び出すコールが繰り返され、
「ただいま電話に出ることができません」
嫌な声の女が返事をした。涼は携帯を床に置いたが、すぐに持ち直し、立ち上がった。
「落ちついてる場合じゃない。今電話に出ないことがどれだけ不吉か」
「げえ、そうだった」
春も腰を上げた。
「あいつの家知ってんの?」との問いかけに、涼は即座に首を横に振った。
「知らない」
そわそわし始める涼。
「落ち着け。そう慌てることはない」
そう言うと動きを止め、睨むように春の目を見た。
「なんで?」
「あいつも一人暮らしなのか?」
「あ、実家だったな。そうだ、あと毎朝ジョギングをしてるとか」
「じゃ大丈夫、ばっちり起きられる。せいぜい怖い夢を見るくらいだろ。それもちびるほどじゃ」
涼の携帯が音を鳴らし、会話は中断した。
「もしもし」
「どうしたの相模君」
涼に笑顔がこぼれた。間違いなく滝川である。
「ほらほら、やっぱ大丈夫じゃん」
春が呑気に腕を後ろに組むと、稲妻のように思考が高速に回り、真紀のことが頭に浮かんだ。
彼女は実家暮らしではない。
「俺って自分で思うほどビビりだな」
春は手を震わせながら真紀の番号を求めて携帯のボタンを叩いた。
2回目のコールで何事も無く出てくれたが、その5秒が10分のように長く感じられた。
「ちくしょう、変な汗かいた」
「え?どしたの?」
何の心当たりもない真紀は笑うしかなかった。
「おまえ一人暮らしだよな」
「そうだね。でも休校になってからは実家で過ごすことにしたの。
 こういうときはみんなでいる方が安全だしさ」
「そっちも無期限の休校か」
「うん」
「そういや、変な夢はあれから見なくなったか?」
「んー、特に変わった夢は見てないよ」
「おかしいな。見るはずなのに」
「え?そうなの?」
「まあいいや。何かあったら電話くれ」
「ええ!気になるんですけど!あとさ、規則睡眠センター行かないの?」
春は「切」ボタンを押そうとする指を止めた。
「なんだって?聞こえなかった」
「きそくすいみんせんたー!」
「なんだそれ」
「ニュースでやってるんですけど。新聞でも一面に載ってるんですけど」
何気なく視線をテレビに向けた春は、体をビクリと震わせた。
画面に何かへばりついていたわけではない。涼が目を見開いたままじっとこちらを見ていたからだ。
「おいびっくりさせんな」
「滝川が入院したらしい」
作品名:VISION 1-8 作家名:みつや