桜姫
私は桜姫。この桜の守護精。
何百年もこのお城のお堀で見守っている。
もう殿様も北の方様もいらっしゃらないが、水辺にたたずみ腕を広げる。
寒い厳しい冬をじっと耐え、静かに眠っている。
空気の中にほんわり暖かい気配を感じたら、一斉に身体が目覚める。
さぁ、春の始まりじゃ。
皆のもの、用意はいいか?
春の気配を身体いっぱいに感じ取って、蕾を作るのだ。
先発隊は冬将軍が戻ってきてもいいように心して咲け!
先触れを告げるのだから、寒気に負けて散ったとしても誇りある名誉の死だ。
「姫様、用意が調いました」
それでは、この暖気に乗って花咲かすのだ!
1年に一度の桜の狂演の始まりじゃ!
お堀の桜は満開で、その淡い色は青空に映え心和ます。
散り始め、お堀が花びらでいっぱいになり、手こぎボートの軌跡が出来る。
その花びらは桜姫の涙。
春を惜しむ心と今年も精一杯花咲かせ皆を喜ばせた証。
これからは、若葉で萌える緑、夏は濃い緑葉、秋は赤や黄色の色彩で
まだまだ人々を癒やし喜ばせるのだ。
「姫様、しばしのお休みを」
そう声がかかるまでの間、姫も忙しいよのう。