君と二人で
僕と話すとき、彼女は決まってこの科白から会話を始める。
「なに?」
そして僕はいつも決まってこう答えるのだ。
「寒い」
11月も終わりに近づいていた。外ではしとしと、雨が降っている。
「こっちおいで」
彼女を手招きして、抱き締める。
「あったかい」
安らぎが伺える笑顔に、僕も心なしか温かくなった。
「ねぇ、透?」
正午過ぎ
「なに?」
相変わらず雨が降っている。
「おでかけしよう?」
うずくまった彼女の、くぐもった声。
「そうだね」
薫る彼女の髪を撫でる。
「わくわくする」
不意に顔を上げ、僕の腕から猫のように身を抜く。
「きっと僕らしかいないよ」
上衣を着込み、靴を履き、扉をそっと押し開ける。
「何処まで?」
傘を開きながら問いかける。
「知らない街まで」
二人でうたう、二人の時間。
「ねぇ、透?」
雨にうたえば。