八兵衛の怪奇館
私にとって、毎日のブログめぐりは楽しみの一つだ。
交流しているブログは更新情報があるたびに目を通し、
中でもよくコメントをくれるブログについては、
「ポンタ君、今日も元気ね」とか、
「ミーたんのいたずらは、ネネちゃん譲りかな?」
「マー君、あんまりモコさんを困らしちゃダメよ」
「面白そうな映画ですね。今度、観に行きたいと思います」などと、
私自身も簡単なコメントを返す。
犬猫ブログ、イラストブログ、情報ブログ、アニメブログ。
ブログのジャンルも様々だが・・・、
ひとつだけ、あまり立ち寄りたくないブログがある。
それは、“八兵衛の怪奇館”というブログ。
幽霊が出るといわれる古城の写真や、ホラー映画特集。
自爆霊がいるというトンネルや廃病院での霊写真の紹介と、盛りだくさん。
おまけに自作の怪奇小説まで載せている。
八兵衛さんは、私のブログの“ラクロスやってま〜す”によく励ましのコメントをくれる人だが、
私自身は八兵衛さんのブログが苦手なので、毎回殆ど読まずに「恐いですね」とか「霊が写ってたらどうしよう」など無難なコメントを残すのみだ。
ところがその日、更新された八兵衛さんのタイトルに目が釘付けになった。
そこには「忍びよる亡霊」として、副題に「加奈子の恐怖体験(実話)」とあったのだ。
実は加奈子という名前は、漢字までが同じ。
もちろん私のブログは匿名だし、加奈子さんは大勢いることから偶然の一致には違いないが、
同じ名前となると、その加奈子さんがどうなったのかは気になるところだ。
その為、文章についつい目を通してしまったのだった。
内容はよくある話で、夜中の電話で知らない女性から「友達になってくれない」と言われ、断ったところ、その後も無言電話が何度もかかってくるというものだった。
この話は、続きをクリックを・・・とあって、それを押してみると・・・、
そこにはただ一言「今から行くから」と書いてあり、少しピンボケの駅前商店街の写真と共に、
「確かこのあたりだ・・・」と赤い文字で書かれているではないか。
そこまで偶然がありえるんだろうか。
なんとその商店街は私が利用する商店街とよく似ていた。
しかも・・・、
その後にあった写真は、ウチの団地と瓜二つ。
さらにエレベーターホール、玄関前と写真は続き、「ここだ、ここだ!」と書かれていた。
気味が悪くなった私は、あわてて八兵衛さんのブログを切った。
だが、冷静に考えれば、商店街はピンボケで、団地の風景などはどこも殆ど同じ。
深夜の電話なんて、私はそもそも出ない。
玄関の表札は写っていなかったし、ようするに加奈子という名前が一緒だったというだけの思い込みにすぎないことだ。
「でも、まさかここで玄関がカチャリと開いたりして・・・」
そんなふうに独り言を言った瞬間、ドアの鍵がカチャリと開いた!
「誰、兄さん?」
私は八兵衛さんのブログのおかげで、上ずった声を出してしまった。
だが・・・、返事がない。
兄さんだったら、「おう、俺俺」と答えるはずだし、父さんや母さんが帰って来る時間じゃない。
「変だな・・・」
私は一呼吸置いてから、ソーっと玄関を覗いてみたが、そこには誰もいなかった。
やはり気のせいに違いない。
思い直してパソコンに再び向かうと「八兵衛の怪奇館」が更新しましたの文字が・・・、
私は、まるで蛇に睨まれたカエルのように、八兵衛のブログをチェックした。
すると写っていた写真は、何と・・・私がパソコンに向かっている後姿!
そこに「見〜つけた!」と大きく赤い文字が添えられていた。
「どっシェ〜!」
私はのけぞって椅子から転がり落ちた。
そこにいたのは写真付き携帯を構え、腹を抱えて笑っている兄さんだった。
なんのことはない。“八兵衛の怪奇館”は兄さんのブログだったのだ。
(おしまい)
作品名:八兵衛の怪奇館 作家名:おやまのポンポコリン