この春も、次の春も
世は宴の真っ最中
桜前線は北上し
人々を巻き込んで
私を巻き込んで
妖気をただよわせた儚い花は
時に人を惑わせる
私は次元を踏みはずし
あなたと少し近くなる
そして
横にいる錯覚におそわれて
空虚な空間に話しかける
「きれいな花ね」
言葉は伝わる事なく拡散していき
引き戻された現実に立ちすくむ
日に日に春は遠ざかり
言葉はますます届かなくなる
駐車場の吹き溜まりで
ピンクの花びらが舞い
フロントガラスに貼りついては飛んでいく
ガラスで隔てられた春を
他人事の様に眺めて
安全なこちら側で
春は荒れ狂い
大きなうねりとなって遠ざかっていく
北へ、北へと
雨に流されて
水たまりにただよう花びら
茶色のゴミとなるまでの
わずかな時を
見る人もなく
雨に打たれて
今頃あなたは
満開の桜の下で
私を見つめているに違いない
文字も
言葉も
時を埋める事はできず
遠く、遠くはなれて
視線だけが突き刺さる
矢の様に
私達が閉じ込められた時差は
いつまで経っても縮まる事はない
この春も
次の春も