夜中に○んこ
日付が変わって二十八分が過ぎた。
私は、あるサイトに夢中になっていた。
実体験なのか、創作なのか、その狭間を想像しながら読み始めた。
一瞬、私の頭がぶれた。
居眠りと言う状態が襲ったのだ。
起きていては、難しいだろう『ぐ、らぁん』と揺らぐ頭。
私の頭の重量が軽めなのが幸いしているのか、頚への負担は軽いようだ。
寝違いや捻挫はしていないようだ。(ほっ!)
回せば、ゴキゴキと嫌な内部に響く音と軽い引き攣り。
「長年私の指令塔を支えてきた頚ありがとう」
一度か二度そういう状態を繰り返すと案外すっきりと目覚めるから睡眠の構造は面白い。
話は外れるが、授業中の緊張感ある居眠りは誠に気持ちが良かった。
随分な過去形だが、あえて「何年前」と特定することは避けておこう。
キュルキュル……話を戻すのも軋んだ音がする。お気になさらずに。
えっと、どこからだったっけ……
〜そう、パソコンであるサイトを見ていたのだ。
私は、一旦中座して、飲み物を取りに行った。
さて、何処にでしょう?・・・・・。
答えは、キッチンまたは冷蔵庫でした。(正解しましたか?)
そこから、クーラーポットの冷えたウーロン茶をコップに注ぎ、元の場所へ。
そして、冷蔵庫のドアを閉める瞬間、目に入ってきた映像。物体の画像。
それは、昼間に買った…補足するならば、コンビニエンスストアのスイーツの棚に
一個あった『クリーム白玉ぜんざい〜さくら風味〜』Circle K Sunkus
〜さくら風味の白玉と桜餡のクリームぜんざいです〜というものだ。
エネルギー量から言えば、通常の生活パターンのひとがこの時間に取るのは控えた方が
いいぞー!くらいだ。
だが、まさに 『甘い誘惑』。ここのところ遠ざかっているこの手の語調。
少し懐かしく、後悔するかもしれない。でも…再び触れてみたい甘美さ。
(やめろ!)の制止の指令が間に合わぬほどのスピードで、私の左手がそれを掴んだ。
冷蔵庫もそれに加担してかドアを素早く閉じ、返させまいと冷製!?な態度を見せた。
左手の活躍に、一歩遅れた右手が、お気に入りのスプーンを持ち出した。
こうなっては、私も観念するしかない。
私は、パソコンの前に戻った。
パソコン台の端にコップとそれを置いた。
パソコンの横からシッポを伸ばしているマウスが、チロッと赤い目を見せた。
いかにも『零すなよ!ちゅーいしろ!』と言わんばかりだ。
冷えたウーロン茶をひと口飲むと、さらに目が覚めた気がした。
透明カップの中に餡とピンク色の白玉…白玉のピンクバージョン?丸い団子状のものが
五個、ほぼ均等に円陣を組んでいる。その中央に生クリーム。
私は、迷ったがそのホイップされた白いふわふわクリームは退けた。(ごめんなさい)
画面の文字を目で追いながら、頬はにんまりと釣りあがった。
不謹慎にも、読んでいた作品は、シリアスな涙もののはずなのに、私の味覚を支配するほうが勝ってしまったのか。
掬って口に運ぶと、ラベルの記載通り、仄かな桜風味の餡の味。
白玉は、実にもっちりとしていた。今までに触れた唇とは弾力が違う。
だが、どちらも 美味しいことには変わりない。
桜風味とは、桜の花の味なのか、塩漬け桜の葉の香りなのか。
私は、遠い昔、花弁を唇に当て震わせ音を出すという遊びをしたことはあるが、
生の花弁を食した経験はない。だから桜の花の味は知らない。
それなのに、桜茶や桜餅や桜風味の菓子は好きだ。
その後、私が作品を二、三読み終えた頃には、カップの中もおしまいになっていた。
穏やかな和の赴きある時間と和やかなお話。
言うに言われぬ味わいのひとときだった。
私は、パソコンを閉じると、洗面所へ行き、口をゆすいだ。
茶を飲んだとはいえ僅かに小豆のカスが流れ落ちた。
さっぱりとした口元とは別に、もったりとした腹具合。
『夜中にあんこ』は、朝の体重計にいかに判定されるだろうか?
今は、ソレを考えることはやめておこう。
― 了 ―