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ぼくらのひみつきち

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 12、キャンピングカー2:外へ 夕方前

俊平 「普通じゃ、つまらない…」
呟く俊平。訝しげに姫乃が振り返る。
俊平 「正ちゃん、言ってたよね。普通じゃつまらない、ちょっとでもいいから、違う事をってさ。」
姫乃 「…言ってた。」
俊平 「だからさ、やっぱりここは、ちょっと違うんだよ。秘密基地は、別にある。」
姫乃 「…どこ?」
俊平 「だからさ、きっと『ちょっと違う所』なんだよ。」
俊平、キャンピングカーのドアを開けて外に出る。
俊平 「行こう、姫乃。探そう。」
姫乃、頷いて俊平の後を追う。
俊平と姫乃は外に出て周りを見回す。だがそれらしいものは見当たらない。
俊平 「絶対、絶対近くにあると思うんだ。」
空を見上げる俊平。少しずつ太陽が傾き始めている。
俊平 「時間が…」
地面に目を落とす俊平。地面に落ちたキャンピングカーの影の、屋根の部分の形がおかしい。
俊平 「…!」
キャンピングカーを振り仰ぐ俊平。ここで初めてキャンピングカーの屋根から上が映る。
屋根の上に張られた、大きなテントのようなもの。
俊平 「姫乃っ!」
思わず叫ぶ俊平。ビクリと姫乃が振り返る。
俊平 「姫乃、あれ!」
キャンピングカーの屋根の上を指差す。姫乃、俊平の隣に立って、テントを見上げる。
姫乃 「秘密基地…?」
俊平 「ちょっとでも、違う所…。そっか。」
無言でテントを見上げる姫乃。
俊平 「きっと正ちゃんは、姫乃とユメちゃんが登れるように、どこかに梯子、用意してると思う。…探そう?」
先ほどの俊平の部屋での回想シーンがよみがえる。夢子と姫乃が「梯子を付ければ登れるもん」と笑いあうシーン。
姫乃 「梯子、付ければ…登れるもん…」
俊平に聞こえない位小さく小さく呟く姫乃。

 13、秘密基地 夕方

俊平と姫乃、屋根への梯子を見つける。縄跳びで造られた梯子。
先に登り、姫乃が登る手助けをする俊平。
俊平 「大丈夫?」
頷く姫乃。
俊平 「これ…秘密基地だよ、姫乃…」
テントの中には、漫画雑誌、カード、スケッチブックやクレヨン、色鉛筆などが置かれている。
姫乃 「これ…ユメちゃんの。」
姫乃、かごの中から小さな人形を取り出す。
俊平 「全部全部、正ちゃんと、ユメちゃんの持ってたものだ…」
俊平、テントの中をぐるりと見渡す。
俊平 「ぼくらの…ひみつきち…」
テントの中で、正太と夢子が遊んでいる幻想。
俊平 「正ちゃん…ユメちゃん…」
正太との思い出の場面がフラッシュする。
学校の帰り道の風景。
四人で遊んでいる風景。
部屋での秘密基地会議。
指きりの場面。声入り。
正太 「いつか造ろう。僕らの秘密基地を。」
俊平 「約束しよう。いつか、僕らの秘密基地を造る事を。」
浮かぶ、白いTシャツ。
俊平 「僕らの、旗…」
俊平、リュックから旗を取り出して広げる。『ぼくらのひみつきち』の文字をじっと見つめる。
その後ろで、姫乃が静かに屋根から降りる。
俊平はそれに気付かない。
俊平 「僕らの秘密基地…」
ゆっくりと呟く俊平。
俊平 「ぼくらの…」
浮かび上がる、正太、夢子、姫乃の笑っている顔。
俊平、ふと顔を上げテント内を見回す。一人。
俊平 「姫乃…?」
誰もいないテント。
俊平 「…ユメちゃん…?」
誰もいないテント。
俊平 「…正ちゃん…?」
誰もいないテント。
俊平、手に持った旗に目を落とす。
俊平 「…ぼくら…?」
しばらくの後、俊平、無言で立ち上がる。テントを見渡し、Tシャツを持ったまま、静かにテントから出て行く。

 14、秘密基地の外 夕暮れ

屋根から降りた俊平、少し離れた、花が咲いている辺りに姫乃の背中を見つける。
俊平 「…姫乃?」
振り返る姫乃。泣いた顔をしている。
傍へ寄る俊平。姫乃の手元には、花冠。
俊平 「ユメちゃんに?」
姫乃、首を横に振る。
姫乃 「ユメちゃんは、いないもん」
俊平 「姫乃」
姫乃 「正ちゃんにも、ユメちゃんにも、もう会えないもん。」
姫乃、立ち上がり、俊平をまっすぐ見つめる。
姫乃 「もうみんなじゃないもん。」
俊平 「もう、僕らは…僕らじゃない。」
強く握り締められる旗。
俊平 「――そんなこと。……そんなこと、分かって――」
言葉の途中で涙が落ちる。姫乃に背中を向ける俊平。そのまま座り込む。泣いている俊平。
姫乃、手に持った花冠を、俊平の頭に載せる。兄の背中に語りかける姫乃。
姫乃 「お兄ちゃんは…お葬式の時、泣かなかったね。」
俊平 「泣かなかったよ。」
姫乃 「でもお兄ちゃん、泣いてるんだね。」
俊平 「そうだよ。だって、もう、会えないんだから。」
俊平、泣きながら無理やり笑う。
姫乃、優しく俊平の背中をぽんぽんと叩く。
俊平 「会えないって、やっと分かったんだから…」
日が沈む。

 15、秘密基地の外2:最後 夜

泣き止み、大きく息をつく俊平。どこかさっぱりした表情。
俊平 「正ちゃん、ユメちゃん…。」
少しの間Tシャツを見つめる俊平。それを丁寧に畳むと、リュックに仕舞う。
俊平、立ち上がり、少し照れくさそうに姫乃を振り返る。自然に手をつなぐ兄妹。
俊平 「…帰ろうか、姫乃。もう、夜だよ。」
姫乃 「ほら見て。星、すごく、綺麗。」
空を指差す姫乃。満天の星空。
俊平 「本当だ…。…みんなで、見たかったね…。」
姫乃 「うん…そうだね。みんなで、見たかった。」
星空を見上げながら帰る兄妹。段々小さくなる姿。やがてカメラから消えていく。

俊平・姫乃「さよなら、僕らの…秘密基地」

声がして、ブラックアウト。





作品名:ぼくらのひみつきち 作家名:雪崩