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Perfect Human

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《始まりと言う「終わり」》
「ん…っ……」

気付いたら私は手術台の前に立っていた。
朦朧とする意識の中で手だけが忙しく動いている…

「あ…たまがぼーっと…する…」
「ん…助しゅ…?」

私の脇には男性と女性、2人の助手がなにやら禍々しい装置を用意している。
訳の分からぬまま何かの手術は着々と進んでいく…

「脳…手じゅ…つ…?」
「あれ…私は…学者に…なって…それで…せ……や…く会社に…つ…とめ……」

確かに私は医大を卒業した。
その後、医者にはならず学者としての道を選び、私は勉学に励んだ。
脳内の構造、働き…精神、進化…退化…
脳に関して、そしてそのもたらす影響の全てを学んだ…

そう…
あの人の役に立つ為…
父や母の様な立派な学者になる為…
そんな私に手術の経験など一度もない…
それは父も母も同じはず、そもそも私の両親は学者であって医者ではない。
頭の中では完全な矛盾が生じていた。

「私…プロジェ……トの再…開…に…反対………て…それ…で…」

手術台に乗せられていた患者は小さかった、おそらくは9~12歳…小学校高学年と言った所か…
顔や身体には手術用のシーツがかぶせてあり、大きく穴の空いた頭蓋だけが出されている。
これでは、その程度の情報しか分からない。

私はその子の脳の一部分を切開しそばにあった何かをそこに埋め込んだ…

「コレ…は…何…なんなの…一体…」

ただでさえ意識の朦朧とするなか、理解不能なこの状況…
私の意識は更に混乱し深く…深く沈んでいった…

ここから先は同じ事の繰り返し…
目覚めては現状がおかしい事に気付く…
そしてそれが何か見出せぬまま、また意識を失う…
ただ…手術は着々と進んで行く。

その行程を何度か繰り返したある時、周りから拍手が上がった。

「成功だ!!」
「被検体Aの心拍、脳波、全て正常値!!」
「見ろ、被検体Bも最後まで倒れる事もなかった!!動きも人間の『それ』そのものだったぞ!!」
「やはり私達の理論は間違っていなかった!!」

辺りからは感極まる言葉が溢れかえっている。
しかし…
それはある男の一声で静寂に変わってしまう。

「まぁ待て…経過も見なければ成功とは言えん。」

辺りは静まりかえった。

「どうだい?その両手足の使い心地は…」

暗がりの奥から現れた男は私にそう語りかける。
オ・カ・シ・イ…
次第に意識はハッキリして心臓の脈打つ音が大きくなる…
同時…
激しい痛みが全身を襲う。

「っぐ!!!!!!!!!!!」

辛うじて意識を保った…
気を抜けばそのまま崩れ落ちてしまいそうな程の痛みだった。

「っえ…」

私は全身の違和感に今更気付いた。
腰から下、そいて両腕がギラギラとした鋼が光っている…

「どうだい?天才メッサーの両腕は?」

「どう…言う…こ…………」

頭に激痛が奔り…もう意識を保てそうにないのは自分でも分かっていた。
視界が暗くなり、身体から力が抜けていた。

「おやおや、仕方のない子だ。」
「おい!!」

そう言うと、助手…
父と母が私を抱え支えた、まだ倒れる事を許さないらしい。
それを見てほくそ笑む男は、手術用のシーツをサっと払いのけた。

「んんんんんんんんん!!!!!!!!!」

言葉にならない声が辺りに響いた…
私はその一瞬で虚ろになっていた全ての記憶を思い出したのだ…
何故、ここに立っているか、
何故、私の両手足は別のものになっているのか、
これが何のプロジェクトだったのか…
全てを理解した瞬間、私は意識を失った。
そして、
次に目覚める時にはその全てを忘れている。
何故だろう…
そうなる事を私は分かっていた。

暗がる意識の中、その男の高笑いだえがハッキリと耳に入っていた…






目覚めた私は病室のベットにいた。
何も思い出せない…
ここにいる理由と言う次元ではない、私が生きて来ただろう経緯の全てを思い出せない…

「うぅぅぅうぅ…」

気が付くと私は泣いていた、
涙を流す理由も分からず、ただ本能で泣いていた…
体温の感じない鋼の手足…
記憶を失った私にはそれは不自然な事でも無く、気にすら止めなかった。

「…!!!!」

何かが私を呼んでいる気がした。
横を見ると一人の少女が眠っている。


「っ…!!!!」


鈍器で殴られた様な頭痛が奔った…
この少女が誰かは分からない…でも!!

気が付くと私は逃げ出していた、その少女を抱えて…
その病院らしい施設を抜けて、その辺りに止められている車の1台に乗り込んでいた。

他にも車はあった…
なのに私はその車を選んだ、鍵は空いていてキーも刺さっている。
『仕組まれている』そんな事を考える事は今の私では出来なかった。
本能のおもむくままに、この少女とここから逃げ出す事意外は何も出来なかった…
そこから先の意識ははない。
無我夢中だったのか、それとも支配されていたのか、私には分からない。



気付いた時には火の海の中に私は伏せていた。
山の麓であろう道、辺りには誰の気配も感じない…
ただ、遠くでサイレンのなる音だけは確かに聞こえた。



「お母さん!!お母さん!!お母さん!!」

血まみれで泣きじゃくる少女の声…
本能だろう、僅かな意識を残した私はその少女の元に向かおうとした…

「…!!!!」


動く事が出来ない…

どうやら私の半身と両手は失われてしまったらしい…
既に…残ってはいない。

死を悟った…
言い表す事の出来ない憎が胸の底からこみ上げて来る。

が…


気付いた時にはそんな感情は失われていた。

あの場所からの脱出、そして傷付きながら母と呼ぶ少女の無事に安堵したのか…もしくは残っていた何かしらの感情が私にそうさせたのかも知れない。

最後に…

少女に向かって私は…



『ほほえんだ』

笑顔でこの世を去る。

笑って逝く…
失ったはずの記憶が走馬灯として駆け巡る中で自分自身の理不尽な行動に対しての答えはあった。

確かに絶望的な最後ではあったが、目の前にいる『少女』…
失った母としての『意識』…

そして記憶の断片に残る『少年』に希望を見たのである。

それが何よりの幸せで、自分が笑って逝ける『証』だったのだろう。



「春…ちゃん……ゆ…ず………きを…よ…しく………ね…」



言葉と共に私は笑顔のまま目を閉じた。

何故だろう…
たかがその程度の事、絶望的とも言える状況下で私は安心しきっていた。



ただ…

残された少女はそんな思惑など知らず…

失われて行く私を見てただただ泣き叫んでいた。



辺りからは轟く劫火の音…

鼻をつく焦げる血と肉の香り…



それらは気を狂わせてしまうには充分すぎる一瞬だった…



紅く…

紅く…

あかく…

あカク…

アカク…



既に少女に涙はなかった。

小さな瞳に焼き付けられる惨劇の光景は少女の持つ全ての記憶を無かった事にしたのだ。


そして、少女は…

眠りについた。




…

陰が…近づいてくる…

香水…?
どこか懐かしさを感じた。

その陰は私の首筋から何かを抜き取って私に呟く…



「プロジェクト・P/H…」


作品名:Perfect Human 作家名:ジン