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魔法使いの贈り物

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或る所に、小さな村がありました。
平和で皆が仲良しの、幸せな村でした。
その村には、一人の魔法使いが住んでいました。
困ったことがあったとき、皆は魔法使いの所へ行きました。
気難しいおじいさんも、怒りっぽい八百屋のおかみさんも、そこでは皆が笑顔になりました。
魔法使いは、皆に好かれる、とても良い魔法使いでした。

魔法使いは、自分の命の長さを知っていました。
だからその日が来た時、魔法使いは皆の前で言いました。
「皆さんに、お別れを言わなければなりません」
それを聞いて、人々は驚き、そして悲しみました。
そして口々に、いかないでください、と言いました。
村人皆が、泣いていました。

「ああ、皆、そんなに悲しまないでおくれ」
泣く村人たちに、魔法使いはそう言いました。
「私はいなくなるけれど、その代わりに贈り物を一つ、残していこう。
 それはきっと皆を幸せにするから、どうか大切にしておくれ」
約束します、と村長が真っ赤な目をして言いました。
「ありがとう」
魔法使いはにっこりして、家の中へ帰って行きました。

そして魔法使いはいなくなってしまいました。
村中皆が、泣きました。
人々は、朝日の昇る丘に、魔法使いのお墓を立てました。
朝日を浴びてきらきら輝く、とても綺麗なお墓でした。

魔法使いがいなくなってしまってから、人々は何だか楽しくなくなってしまいました。
気難しいおじいさんは難しい顔ばかりしています。
八百屋のおかみさんは怒ってばかりです。
毎日どこかで子供が泣いています。
平和で皆が仲良しの幸せな村では、なくなってしまいました。

幸せではなくなってしまった村ですが、皆、魔法使いのお墓はとても大切にしました。
お墓の前にいるときだけは、皆が笑顔になりました。

そんなある日、魔法使いのお墓の前に小さな草が生えました。
綺麗な綺麗な緑色をした、小さな草です、
きっとこれが贈り物なんだ、と誰かが言いました。
皆も、それに頷きました。

その日から、村の人たちはその草を大切に育てました。
幸せではなくなった村は、まだ幸せではありません。
でも、その草の話をする時だけは、皆笑顔になりました。
村の人々のお陰で、草はすくすくと大きくなりました。

草が子供の背丈を越した頃、ひどい日照りが続きました。
けれど村の人々は、一生懸命魔法使いのお墓と、草を守りました。

人々に守られて、不思議な草はすくすくと育ちました。
草が大人の背丈を越した頃、不思議な花が咲きました。
綺麗な綺麗な桃色をした、大きな花です。
幸せでなくなった村は、まだ幸せではありません。
でも、その花の話をする時だけは、皆笑顔になりました。

不思議な花が枯れた後、そこにたまごが出来ました。
綺麗な綺麗な白い色の、小さなたまごです。
幸せでなくなった村は、まだ幸せではありません。
でも、そのたまごの話をする時だけは、皆笑顔になりました。
村の人々のお陰で、たまごはすくすくと大きくなりました。

たまごが風船と同じ位大きくなった頃、ひどい嵐が続きました。
けれど村の人々は、一生懸命魔法使いのお墓と、たまごを守りました。

不思議なたまごはすくすくと大きくなりました。
そして、たまごが子供の一抱えほどの大きさになった頃、白いたまごの表面にひびが入りました。
村の人々は、胸をどきどきさせながらたまごの割れる瞬間を見守りました。

そして――

割れたたまごの中から、小さな魔法使いが出てきました。
小さな魔法使いは、にっこりして言いました。
「やあ皆さん、気に入ってもらえましたか?」
村の人々は、皆笑顔になりました。

小さな魔法使いは、すくすくと大きくなりました。
困っている村人を助ける、良い魔法使いでした。
小さな魔法使いが少し大きくなった頃、ひどい地震がありました。
小さな魔法使いは、一生懸命に村を守りました。

小さな魔法使いは、すくすくと大きくなりました。
大きくなった魔法使いは、困ったことがあるとすぐに助けてくれる、とても良い魔法使いでした。

ある時大きくなった魔法使いに、村の人々が尋ねました。
「なぜあなたはそんなにも一生懸命私たちの村を守ってくれるのですか?」
それに、魔法使いはにっこりして答えました。
「あなた方は、まだ私が草だった頃から一生懸命私を守ってくれたでしょう。
 ですから、これは当然のことなのです。」

それから、大きくなった魔法使いは、一生懸命、村の人々のために色々なことをしました。
どんな小さな相談ごとにも一生懸命に相手になる、とてもよい魔法使いでした。
気難しいおじいさんも、怒りっぽい八百屋のおかみさんも、皆笑顔になりました。
村中に子供の笑い声が響いています。

平和で皆が仲良しの幸せな村は、今日も平和で皆が仲良しで幸せです。

作品名:魔法使いの贈り物 作家名:雪崩