アリッサム
そんなに私は自殺しそうだろうか。と思い今日の出で立ちを振り返ってみる。前髪が伸びていて真っ黒な服で、猫背。仕方ないかもしれないと思った自分に凹んだ。
季節は、春。
ひとつは2階の南側の自分の部屋の机の上に置く。しょっちゅう何かを溢したり移動させたりするし昼間はカーテンを引いていることが多いが、それでも
家の中で直接日の当たる場所と言われてここしか思いつかなかった。もうひとつは3階の北側の窓所に置く。擦りガラス越しの柔らかい光が変わらずに当たり時間が深々と積っていく場所。
取り敢えず水をやって種を蒔いて放置する。ハーブはアリッサムという聞いたことのない名前だった。
春眠暁を覚えず、というが私は春だって6時に起きる。外が明るいのに起きないのはなんだか時間を無駄にしている様な気がするのだ。逆に暗くなってからも起きていると休息時間を浪費している様な気がする。根っからの農耕民族なのかもしれない。
まだ自殺する気の無い私は珈琲には少しだけこだわりを持っている。インスタントは使わずレギュラー、最近はもっぱら一杯ずつのドリップ式である。酸味が苦手なので酸味が0のコクと香りの強いものを選ぶ。本当はエスプレッソのブラックが好きなのだが自分で淹れるともったいない気がしてしまって大抵マグボトルに7割くらい淹れる。で、たっぷりの蜂蜜とミルク。蜂蜜は純正品じゃないといけない。ミルクは成分無調整の牛乳が良い。ない時は決まった会社のコーヒー用のを入れた後に脱脂粉乳を足す。深い意味もなく、ただなんとなくこだわっている位で丁度良い。
海が見える、と勧められた坂の上のこの部屋は、隣の団地との目隠しの木のせいで海は全然見えない。木の上、目の高さから青い空になる。一階上の友人の部屋からは綺麗に海の見える街が広がっていたというのに。それでも一階分を毎日上り下りするのを億劫がって未だに部屋替え希望は出して居ない。
春には桜が咲く。目の高さが桜の木。右側の木は膨らんだ蕾で濃い紅、左側の木は満開で薄紅。こんな朝にはふっと無表情になって、色んなものを流してみる。鳥の声と蜂蜜入りの珈琲の香り。薄紅に埋もれてしまいたい、春。10分に一本の電車が坂の下を通ったら、13分に一本のバスが裏の道を通ったら、何日かに一辺の船の汽笛が遠くの海へ行く別れを告げたら、返って来る、春のよい。今はまだ眠らせておくれ、薄紅。
アリッサムの芽はなんだか細くてモヤシみたいだった。