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アイラブ桐生 第4部 47~48

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 「小春さんも、あんなに”おきゃん”だったのですか?」

 「若いうちはみんなそうじゃ。元気が取り柄さ。
 小春は、中学に入る前からこの祇園にやって来た子だ。
 いわゆる特別な子の、ひとりだった。
 貧しい田舎から売られて祇園に来る子なども、昔はたくさんいた。
 小春は特別で、田舎育ちだったが自分の意志で、芸妓にあこがれて、
 この祇園にやって来た少女だ。
 貧しいゆえの『口べらし』などというものが、
 まだ田舎に有った時代のはなしだよ。
 お千代の同級生がやっている屋形から中学校へ通い、
 そのままそこで、舞妓になった。
 仕込みの頃の小春は、いまの春玉とそっくりだ。
 本当に良く似てる。」


 「中学から祇園で育ったんですか、小春姐さんは。」

 「祇園も全盛のころには、そういう芸妓がたくさんいた。
 そう言う子のことを、祇園では『学校いきさん』と呼んでいた。
 学校でも『うちは、これから稽古です』といえば授業中でも、
 帰してもらえた時代があった。
 中学の卒業と同時に、舞妓の見世出しも可能な時代だった。
 舞妓と言えば、幼い少女たちがほとんどで、
 17~8歳になるともう、みんな一人前の芸妓になっていたもんだ。
 そういう舞妓が、つい最近までは沢山いたんだよ。
 祇園が全盛だった、あの頃には、な・・」



 懐かしそうに源平さんが目を細めています。
この人も、お千代さんも、もう、半世紀以上もこの
祇園とともに生きているのです。



 「そろそろ帰ろうかのう」
 源平さんが腰を上げたのは、4時過ぎのことでした。
竿を担いで並んで土手を歩いているうちに、
源平さんが独り言をつぶやきはじめます。


 春玉もそろそろ一本立ちをして、
一人でお座敷を務める時期がくる。
お姐さん芸妓に着いてお茶屋を回っているうちは、
舞妓といってもまだ半人前だ・・・・
お客に指名をされるようになってこそ、
初めて一人前といえる。


 小春の時もそうだった・・・

 おまえも、春玉の初披露の席には俺に付き合え、
と源平さんが振り返ります。
『少なからず縁もあるようだ。、春玉も内心は喜ぶだろうから、
段取をりするから一緒に来い』と、源平さんから強い口調で誘われました。
願ってもないことですが、私は、お茶屋の席が苦手です。
敷居は高すぎるし、あれやこれやの格式や決まりごとが多すぎて
正直、窮屈感のほうが強すぎました。



 「それはまさに、その通りだ!
 祇園は『粋』を楽しむために足を運び、
 遊びに行くところだ。
 遊び半分で、芸も舞も解らぬ素人衆が、
 舞妓や芸妓を愛でるために行くわけではない。
 芸というものが解っていて、踊りというものを知っていなければ
 宴席は盛り上がらないだろうし、第一つまらない。
 花街は、遊ぶ側にも、茶道や華道、
 謡に日本舞踊の素養が必要とされている。
 一般人の盛り場とは、次元も格式もまったく別の、違う空間だ。
 祇園は、長年にわたってそれらをを守り続けてきた、
 由緒正しい花街だ。
 おまえさんのその感想は、正直だし、正解だ。
 まさにその通りだ!」


 あははと、豪快に笑われてしまいました。
祇園と呼ばれる花街は、芸妓たちが生涯をかけて
真剣に芸を磨く場であり、それを支えるお客たちもまた、
常に芸を見る目も肥やし続けているのです・・・・

 源平さんの自宅では玄関先から、
煮物らしい好い匂いが漂っていました。



 「ほう・・・・珍しい。お千代の煮ものか」



 玄関に釣竿を立て懸けた源平さんが、
上がれと手招きをしました。
そのまま源平さんは、お千代さんの居るはずの
台所を覗き込もうともせずに廊下を進んで、
自分の部屋へと消えいってしまいました。



 「お帰り。ありがとうね、
 頑固者の面倒をみてくれて」


 ちょっとおいでと、今度は、
お千代さんに呼び止めらてしまいます。



 「あの頑固者め。素直に(あたしの)
 言うことを聞けばいいのに、
 頑固に、いつまでたっても拒み続けて、困ったもんだ。
 あんたも巻き添えを食って、いい迷惑だものね。
 迷惑ついでにもうひとつ、
 私の用事にもつきあってくれるかい?」


 最近は交互に、源平さんとお千代さんの間に入るという、
板挟み状態が続いています。
お安いご用ですと先に答えたら、
お千代さんに笑われてしまいました。



 「あらまあ、ぼうやも、気が早い。
 実は今晩、また、若い二人と会う約束をしていたのだけど、
 あれ(ご亭主)が、もう少しなんとかなると思っていたのに、
 あいかわらず、ああして拗ねたままでしょう。
 夕食にあれの好きな物を拵えて、機嫌でも取ろうと思ったけど
 当の私が夕食のときに出掛けていたのでは、いかにも具合が悪い。
 熱燗でも漬けて(あいつの)ご機嫌をとるから、
 ぼうやは、わたしの代わりに若い二人と呑んできて頂戴。
 若いほうも、誘いを断ったら可哀想だ。
 あたしは亭主、ぼうやは若いもんの二人。
 手わけをして機嫌をとりましょう・・・・
 あんたも私たちの板挟みだけど、わたしも
 頑固なオヤジと、どうにかしてあげたい、
 結婚前の若い二人からの、
 両方からの板挟み状態のまんまだよ。
 板挟み同士の仲間として、よろしく頼んだよ。」


 たしかに、娘さんの結婚話を巡って、
あちらとこちらで、板挟みとその腹の探り合いが始まっています。
しかしこの窮地にあって、お千代さんに、
起死回生の秘策は有るのでしょうか・・・・