春泣き
僕は絶叫していた。
さらに身の回りのありとあらゆる物を壁に投げつけていた。
時計、鍵、携帯電話にベルト、くしや眼鏡ケース、クッション、マウス、リモコン、さらにはコップ…。雑誌や会議の資料も、手に掴んで振りかぶって投げ捨てる。絶叫しながら。
言葉にならない声を身体中であげながら、いつしか僕は泣いていた。そして泣きながら玄関まで這って、靴を履き、霞む視界でドアノブを捉え、力任せに扉を開けた。
そのあと僕はしゃくりをあげて階段を駆け下り、よろよろと夜道を疾走した。あまり体力に自信のない僕は、すぐに足を止めてしまい、その場に立ち尽くしてまた泣きじゃくった。
何処だか分からない場所で、何時まで泣いていただろうか。落ち着きを取り戻し始めた僕は辺りを見回して絶句した。
僕の目に飛び込んできたのは大きな染井吉野だったのだ。
僕はその染井吉野に近づき、震える両手で幹に縋りついて、そのまま根本に座り込んだ。
背中を太い幹に預けて暫くうとうとしていると、僕の影がゆっくりと動き始めた。朝が来たのだ。
顔を拭ったときにぽろっと落ちた眼鏡を手探りで拾い上げて、袖口で乱暴に土を拭い、かける。
レンズを通して見えた世界は、いつもの僕の部屋だった。