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飴色

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私は昔から、体内にうごめく「何か」を感じていました。それは固体になったり、液体になったり、形は変わりながらも常に私の中にいました。
 私がその正体を知ることとなったのは、中学校に上がってすぐのことです。私の左隣に座っていた彼も、私と同じ「何か」を持っていたのです。
 しかし、彼は私と違って常に生き生きとしていました。私がずっと見ることのできなかったそれを、彼はいとも簡単に垂れ流しにしていました。級友たちと他愛のない会話をして笑う、私は左側に首を回してその顔を見ると、それはとても億劫そうに彼に纏わり付いていました。
 私は「飴色だ」とだけ思いました。その後知った、色としての飴色とはまた違った色でしたが、その頃の私は「飴色」としか形容できなかったのです。
 彼はまた、飴色の存在に気がついていないようでした。唐突に、意識する様子もなく振り撒かれる飴色は、私をどんどん虜にしていきました。あの美しい色が私の中にも満ちていると思うと、私の中の飴色は気化し、以前の私にはない明るさというものを感じたのです。
 私は彼と話をするようになりました。決して近い関係ではありませんでしたが、私の唯一の男友達でした。
 私達は同じ高校に進学し、つかず離れずの距離を保っていました。友人の中には、彼のことをかっこいいなどと言う者もおりましたが、私は彼の外側を一切見ていませんでした。
 私が見ていたのは、あの飴色だけでした。その細めた目から、低くなった声から、ペンを持つ右手から、地面を蹴るつま先からぽたぽたと落ちて滲みる飴色を、私は一滴も余すことなく見続けました。
 きっと、私の中にもこの飴色がとぐろを巻いているのだ、そう思う度私は皮を食い破りたくなるのです。皮一枚を隔てた場所の飴色を、思い切り混ぜたいと。
 彼に対する願望が増える度に、同時に彼への薄い苛立ちが積もっていきました。
 彼は、私にはできないことを、意識する風もなく飄々とこなすのです。誰にも褒められない美しさを、掬うわけでもなく垂れ流しにしているのです。
 一人よがりの焦燥にも似た感情を理由に、私は彼に言葉のつぶてを投げつけました。
 冬のある日の帰り道、笑いながらだったと思います。笑いながら、君には見えないんでしょう、と言いました。彼は一瞬苦悶の表情を浮かべて、それからまた笑いました。そんなことをしなくても、私には分かります。
 彼の一つ一つの表情にさえ飴色の匂いを感じて、私は息を止めてまた笑いました。
 その次に、私は初めて涙を流しました。私の中にたくさんの感情があって、それを溜める器からいくらか零れたようです。
 あぁ、飴色だ。私の飴色も、遂に姿を現しました。しかしそれは美しくはなく、私には吹き出物の膿のように思えました。
 一方彼の目からは、相変わらず綺麗な飴色が流れています。
 彼は躊躇せず、私の涙を掬い取りました。すると、不思議なことに、それが綺麗に見えたので、私も彼の涙に指先で触れました。美しいままでした。どうしてだろう、と私が考えていると、今度は一面が飴色になりました。
 紅茶の中に突き落とされた気分です。涙も止まりました。彼の中に溶けていっただけかもしれませんが。
 そして、飴色の真ん中にある音が聞こえました。
 彼にも同じように心臓があって、ほかの内臓も揃っていて、私は今更そんなことに気付き、妙な安堵感に身を委ねました。
 ねぇ、君は知らないんでしょう、と彼は言ったと思います。肋骨同士を伝うように届いた音は、くぐもっていました。
 私は頷きました。溶けていきそうな気さえしました。
 少し上を見ると、目がありました。目が合う度に細くなるその目を見て、私はいつもより強く、飴色が輝くのをこの目に映してみました。
作品名:飴色 作家名:さと