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「お前、のっぺらぼうなの?」

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 平塚はうつむき、しばらくの間黙っていたが、やがてため息をついて口を開いた。
「僕の正体がのっぺらぼうだとか、そんな変な噂を広めてほしくないんで、言いますけど」
 三人は一斉に身を乗り出した。
 平塚はむすっとした顔でフォークに手を伸ばし、再びパスタを食べ始めた。
「笑わないで下さいよ。僕、化粧に興味があるんです」
「化粧……。最近よく聞く、メンズメイクってやつ?」
「そうです。化粧下地、ファンデーション、色の薄い口紅。持ってますよ、色々。……一週間前、女性社員たちが見たのは、顔パックを貼りつけていた僕です。本当、タイミングの悪い時に来てくれたものです」
「それじゃ、今朝俺が見かけた肌色のものは?」
「これでしょう」
 平塚はポケットを漁り、小さなベージュの箱を取り出した。
「ファンデーションのケースです。値の張るもので、意地でも落としたくなくて。今朝慌てたのはそのせいです」
 ふいに、内木が「あっ」と声をもらした。
「ねえ、見て。私の指にファンデーションがついてる!」
 内木は加賀谷と筒浦に自分の指を見せた。先ほど平塚の眉間をつまんでいた内木の指先に、肌色の粉がついていた。
「本当だ。嘘じゃないのね」
「ご、ごめん平塚くん。お化粧が崩れちゃったかな」
「大丈夫ですよ。それに、これで僕の疑いは晴れたでしょう」
「なーんだ! つまんねえな」
 加賀谷は身を引き、やれやれと息を吐き出した。
「もしお前がのっぺらぼうだったら、目鼻の位置を変えて遊んでやろうと思ったのに」
「意外と普通でちょっとがっかり」
「お二人とも、好き勝手なこと言わないで下さい。僕は普通の人間ですから」
「でも、これで解決ね」
 内木はにっこり笑って、ファンデーションのついた指を優しく握った。
「平塚くんがのっぺらぼうじゃなくて良かった。私、ほっとしたし、ファンクラブの女の子たちも、きっと安心するわ」
 昼休み終了十分前のチャイムが鳴った。辺りを見渡せば、食堂には人気がすっかりなくなっている。
「やべ、早く戻らないと!」
「まさかこんなに話が長くなるとはね。ウッチー、食器を下げに行こ」
「うん」
 三人はガタガタと席を立つ。
 おもむろに、平塚がフォークを置いた。パスタを飲み込み、テーブルから顔を背ける。スーツの袖で鼻を覆い、一拍置いて、体を大きくのけぞらせた。
「えっくし!!」
 平塚の勇ましいクシャミに、三人は一斉に彼の方に振り返った。
「……失礼しました」
 平塚はスーツの袖からそっと顔を離した。一二度鼻をすすり、それから何事もなかったかのように立ち上がる。
 しかし三人の目は、依然として平塚に釘づけになっていた。
「……平塚、お前」
「何ですか、加賀谷先輩」
「片方ないぞ、鼻の穴」
「え?」
 平塚は青ざめ、がばっと手で顔を覆った。

 一瞬の静寂の後、食堂に三人の叫び声が響き渡った。