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可哀想なお雛様

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こちらでは雛人形は4月3日まで飾る。
一ヶ月遅れのひな祭りということになる。

ここ何年もお雛さまはお蔵のなかで
淋しい時間を過ごしていた。
たまには春の陽射しを見せてあげようと
先月七段飾りのおひな様を飾った。
久しぶりに飾るおひな様たちは昔と変わらない美しさだった。
しかし、飾ったおひな様は母屋に飾ってあるので誰も見に行かない。

上の娘は東京から帰ってきて写真を撮るために
和室に一度行っただけだし、下の娘は「興味ないもん」と一言。

そういえば思いだした。
娘たちがまだ4歳とか5歳位の頃だったと思う。
お祖父ちゃんにお願いしていたことがあった。
「お祖父ちゃん、5月になったら鯉のぼりあげてね!」と。

4月の中旬になってお祖父ちゃんは、頑張った。
それはそれは大きな真鯉に長い竿を持ち出して
孫の願いを聞いて飾ってくれた。

お祖父ちゃんには子どもが一人しかいないので
孫はこの二人の女の子しかいない。
大きな鯉のぼりは二人の孫の父親のものだ。
風に悠々となびく鯉をたいそう気に入った娘たちは
それから毎年、鯉のぼりを揚げてもらい大喜びだった。

七段飾りのお雛様には興味がなくて
次第にお蔵の中で静かにしていることが多くなった。
可哀想なお雛様だ。
今回もせっかく飾ったのに
誰にもゆっくりと見てもらうことなく
また今日お蔵の中へ戻っていった。
作品名:可哀想なお雛様 作家名:ゆう