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青柳の3分クッキング

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「青や、私の青」

「お呼びですか、重成様」

「朝餉はまだですか?」

「あらいやだ、朝餉ならすぐそこに用意してありますわ」

「え?」

「ほら、そこの生魚」

「青、これは調理の必要がありますね」



木村家の朝はたいていこのやりとりで始まる。重成は毎朝まともな朝食は期待していないので女中を呼んで青柳が狩ってきたと思われる生魚を調理してもらうことにした。


「青、何故いつも未調理の食品ばかり用意するんですか?しかも調理しないと食べられないような代物を・・・」


「それは一重に青めの趣味を優先してのことです」
「趣味?え、生魚が?」

「違うに決まってんだろボケナス」

「今一瞬青が鬼嫁に見えましたがあえて見なかったことにしておきましょう」

「そうですね」


そして、比較的無事に朝食が済み重成は休暇中だったので青柳の日常を観察することにした。


「それを俗に変態と言いますね重成様」


朝、朝食が終わり青柳は食器を片付けている。女中は若干冷や冷やした目で青柳を見ている。


「御台所様・・・いくら重成様でも蝸牛は食されないのでは・・・?」

「あら、異国では蝸牛は一般的に食べられているのよ。重成様もきっと大丈夫だわ」

「大丈夫じゃありませんからね」


昼、やはり城勤めが無いと暇な重成である。
訳注:戦国時代以前は、緊急時(戦とかいろいろ)以外は昼食をとるという習慣はありません。多分。


「青、私にも何か仕事をくれませんか?」

「そんな滅相もない・・・殿にはそこに居ていただくだけで良いのです」

「そうは言われてもただそこに居るだけじゃ暇なのですよ」

「左様でございますか・・・それならいい暇つぶしの方法がありますわ!」


青柳はいかにも名案を思いついたという風に手を打った。


「ここに籤がありますわね。この籤に“山”と書いてあったら山の幸を、“川”と書いてあったら川の幸を持ってくるというのはいかがでしょう」

「それなら夕餉の材料調達もできますし、いいですね。あえて川の幸については突っ込みません」


こうして重成と青柳は籤を引いた。


「私は“川”ですね」

「はい。青めは“山”にござります」

「それでは夕刻までにこちらに帰ってくるとして、青、無理はしないでくださいよ。貴方の体がなにより大事です」

「体だなんて・・・破廉恥」

「そういう意味ではなく!」


若干問題はあったものの2人は分かれて夕餉の材料調達に行った。




「川といえば魚ですかね・・・いやはや、今朝のような魚を青はどこで狩ったのでしょう・・・」


そういいながらたくさんの魚を籠に放り込んだ。しばらく魚を獲っていた重成は空を見上げて時間を確認し、家路へと急いだ。


「青、青や」


家についた重成は青柳を呼んだが返事がない。縁側に座っていると、不意に奥の茂みから何かを引きずる音がした。慌てた重成がそちらへ向かうと、笑顔で熊を引きずる(片手)青柳の姿があった。空いているほうの肩には雉のような鳥と狸を背負っている。


「あ、青!?」

「あら重成様、お帰りなさいまし。」

「いやそれより青、それは・・・」


重成は青柳が片手で引きずっている熊を見ている。一体どこをどう攻撃したらこんなに大きな熊をしとめられるんだ。ていうか山の幸って山菜とかじゃないのか


「立派なにございましょう?今宵は熊鍋にしますわ!」


笑顔を絶やさない青柳に若干恐怖しながら(青柳なら一人で天下統一も可能なのではないか)、重成の脳内は暢気なことを考えていた。


朝餉もこんな感じでつくってくれたらいいのに
作品名:青柳の3分クッキング 作家名:中川環