小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ヘヴィーメタル・ダークトーン

INDEX|1ページ/1ページ|

 
一章 謀反

 「覚悟はいいな」と声がした。僕ははっと目を開けた。おかしい。さっき聞いた言葉だ。しかも、その後僕は何も聞くことが出来ないはずだった。
 死ぬはずだった。僕は銃殺される予定だった。僕が空間を認識しだすと、死刑執行人である兵士が五人、銃を捨てホールドアップしている。突然のことらしく困惑の色が顔ににじんでいた。後ろにラフな格好の男が五人立っていて、アサルトライフルを兵士たちの背中に突き立てていた。僕に声をかけた将校は、倒れていた。その後ろに妙齢でスキンヘッドの男が佇んでいる。
 僕は理解した。二度目の声は、僕の頭の中で再生したものだった。僕は死なず、生きている。
 司令室みたいな死刑場は、沈黙につつまれ、空気が重厚になっている。
 「やあ、マティソン」僕を救ったらしい男が言った。低くて渋い声だった。
 僕の名をスキンヘッドは知っている、ということは僕の犯罪性に関しても知っているということだった。男はにこやかと顔を笑顔にした。
 「安心しろ。君はもうすでに自由の身だ。これから、この国は、罪の世界になる」
 僕は、は?と顔を渋面させた。
 「これから罪人は、暗がりから太陽の下へ堂々と現れる。もはや正義も悪も無い。これぽっちも無いんだ。」
 男は気分がよさそうだった。僕は言っている事がよく判らなかった。スキンヘッドの頭が変だと思った。テロリスト風情だ。
 「わけが解からない。何を言ってるんだ?」と僕は訊ねた。実質、良く解からなかった。
 「解からない?ああすまない。もっと解かりやすく言おう」
男の顔は晴れ晴れとしている。
「もう、警察も法も無い。すべての罪人は自由の身だ。どんなやつも肩を並べて生きていく。もちろん間違えば死にやすくはなるが。」
 「それは、無法地帯ってことか?」
 「ああそうともいえるな」
 それはおかしかった。馬鹿に等しい。なにか決まりごとが無ければ、ここは地獄になる。
 「なんでだ?この社会がぶっ壊れる。結局自由がなくなるかもしれない」
 「は、はははは。みんな気づく事だ。人間を法が無くなったら救いようが無い無能だとでも思ってるのか。どうせ、悪に拮抗する輩が出るだろう。
みんな幸せが好きだ。地獄なんかよりもな。それに・・・・・・」
 男の言い分は確かに納得がいった。男は相好を崩さず、続ける。
 「新しい秩序を作り出すつもりだ。」
 男は突然思案する顔つきになって、ぱっと表情を軽やかにした。
 「そうだ、見てくるといい。今の有り様を。」
 百聞は一見にしかずということらしい。僕はうなずいて出入り口へ向かった。男はすれ違いざま、僕を呼び止めた。
 「外は治安が悪い。銃を持っていくといい。」
男はぱっと合図をした。男の仲間の一人が拳銃と予備のカートリッジを五つ僕に渡した。44口径のマグナムだ。僕が以前使っていたものとタイプは同じだった。銃帯ももらい、腰に巻いてホルスターに銃をしまい、ポーチのひとつに予備のカートリッジをいれた。
 「気をつけていくんだ。君なら問題ないだろうが、こういう言葉が少なからず力を持つこともあるだろう・・・・・・少なくとも私はそう思ってる。」
 僕は返事のかわりにうなずいて、そこを出た。重い金属の扉を開けて。

街はうるさかった。水気を抜き取った雨のように、銃声が鳴り響いている。ビルのいくつかは、燃えていたし、人々の叫び声や怒鳴り声、高らかな笑い声、雄たけびで満ちあふれている。僕はこの不協和音とも言うべき、有り様に、嫌気を覚えた。
 僕は元々のパワーバランスの成り立つ社会の方が居心地が良かったと思う。なにしろすべてのものは主張可能だった。
 善良な一般人は悪人の殺意を恐れることなく、糾弾ができた。悪人は神経を尖らせて、金を盗んだり、邪魔者を殺したりできた。
 しかし、今やバランスなど無かった。アンバランスな構造が出来上がっている。悪人ばかりがのたまえるようになっていた。
 もちろん、軍隊や警察、その他各所からレジスタンスのようなものは作られているだろうが、どういうわけかスキンヘッドのチームによって大多数の軍隊、警察が抑えられていそうだった。その上、あらゆる刑務所が大解放されたはずだ。嬉々として罪人が街に流失しているのは確実だった。
 僕は商店の立ち並ぶ、大通りの入り口にいた。混雑はしていないがちらほらと人がいる。奪うものと奪われるものに分かれていた。
 一番近いのは果物屋だった。アサルトライフルを持った男が若い店員の胸倉をつかみあげている。僕はすぐに気がついた。アームストロングという、その体格に合う名の罪人だ。殺人罪で最近、刑務所に送られた。彼は嬉々とした表情で店員をなじっている。やつは幼稚だと聞いていたがそのようだった。店員がすくみ上がるのを楽しんでいる。銃とニュースでさんざん宣伝されたその名で相手に恐怖をあたえていた。
 僕は街を見て回るのにアサルトライフルは便利だと思った。僕は拳銃を引き抜いて男の後ろに立った。安全装置をはずした。その音で彼は振り返った。
「やあ、楽しいかい?」
彼は驚いて、
「お、お前は」
彼は少し焦った様子だったが、すぐに笑みに変わった。
「どうだい、お前も」
奴は自分の楽しいことは他人も楽しいと思っているみたいだ。
「いや、見ているだけでいい」
と僕は返すと奴はにっこりしてまた怒鳴り始めた。しかも僕の存在を話すというアレンジまで加えだした。僕は銃を彼の頭に当て引いた
。音はほとんど出ない。出た小さな音は缶ジュースのプルトップをあける音に似ているかもしれない。消音機がついていた。反動はなかなかのものだった。男は糸が切れた操り人形のように地面へ崩れ落ちた。
 僕はアサルトライフルを男の手からひったくった。店員はびっくりステこっちを見ていた。僕は視線をはずし、歩き出した。
 商店街にいる悪党はみんな酔ったみたいに誰かしらに絡んでいる。僕は一人ひとり撃ち抜いていった。
 この状況は気に入らない。正義云々の問題でないことは明らかだ。僕は罪人だ。それも死刑宣告を受けている。僕には罪悪感なんてない。僕はこのアンバランスが嫌いなだけだった。
 おそらくスキンヘッドの男が考える秩序など、僕の好みじゃないだろう。そんな気がする。奴の思考は罪人よりだ。以前のパワーバランスとはまったく違うものになるだろうと思う。するとやはり、スキンヘッドは倒さなくちゃならなかった。
 ただ僕一人じゃどうにもならない。同志を探してみることにした。
 この大通りには潰れたトマトやオレンジ、魚に肉などが散らばっていたし破れた服だってあった。でもそれほどの損害じゃないとは思う。ここにいた罪人の欲望はどれひとつとして、最後まで叶えられなかったんだから。