屁い子
私は緊張するとすぐお腹を壊す。今日だって皆の前に立つだけで、緊張して。
お腹がぐるぐるとなる。痛い。痛さで目の前がチカチカする。
足元も遊園地でコーヒーカップに乗った後みたいにふらふらする。
あんな爽快感みたいなスリルはないけど。
とにかくお腹が痛い。
「どうかしたの?」
仲良しの女の子が心配そうにしながら目では「早く終わらせろよ」と睨んでる。
ごめんね、と謝りたいけど、お腹が痛いの。
名前なんて言ったっけ?あれ?
さぁっと何かが下に下がって顔が冷たくなっていく。
すっと片手でお腹を抱えてよくなーれと唱えてみた。
けど、お腹は「んなこと知らねーよ」とばかりにぐるぐるを増す。
「・・・早く読みなさい」
先生もイライラしながら私の読むのを待っている。
先生が段々、鬼に見えてくる。真っ赤な真っ赤な鬼ヶ島にいる鬼だ。
そうしたらさしずめ、私は桃太郎なんだけど、お腹が痛い桃太郎なんてすぐにやられちゃう。
教科書も、なんだか、金棒に見えてきた。
片手の教科書が震える。片手で抱えるお腹も痛い。
「ぁ・・・・」
もう、限界。
小五の冬、私はクラスメイトの前で大きな屁を出した。
それからの私の渾名が「屁い子」になると、その時の私は知りもせずに真っ赤な顔をして、
「ごめんなさい・・・」
と、後ろにいた男の子に謝ることしか出来なかった。
それから数年後、私は高校生になった。
もう私の「屁い子」時代を知ってる人間はいない。
あれから私も変わった。簡単にはお腹が痛くならない。
どうだ、これでもうこわくない。そういう想いで高一の春を迎えた。
桜が咲き乱れて、清々しい晴れ間が覗く中、入口にいた女の子が言っていた。
「そう言えば、小学校の時にね、屁こいた子がいてさ~」
「へー、名前は?」
「忘れたよ~・・・あ、けど、これだけは」覚えてるよ。
屁い子!って渾名だったな」
お腹が痛くなってきた。