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愛の置手紙

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 月光(ゲッコウ)様。ああ、愛しい殿方(あなたさま)。
 月光様ごめんなさい、もうお別れです。
 とうとう別離(おわかれ)の刻(とき)がやって参りました。
 山の主(ぬし)が我を呼んでいるのです。
 此処へ還って来いと。
 森が囁いているのです。
 此方に戻って来なさいと。

 それでも、貴男は我を追ってくるのでしょう?
 ええ知っていますとも。勿論わかっていますとも。
 貴男は、きっとどこまでもどこへでも駆けて行かれるのでしょう。深い深い樹海(もり)の中を。
 服も手足も傷付いて、二度と此岸に戻れぬと知りながら。我を捕まえにいらっしゃるのでしょう。
 そしてそしてそして、

(あな恋しやあな愛しや月光様)
(沙穂は何時までもお待ちしておりますとも)
作品名:愛の置手紙 作家名:狂言巡