ジェットコースター
遊園地に来る時の人数は偶数が良いに決まってる。
いくら同じ中学の仲良し四人組の一人、只野ミカが用事で来られないからって三人で来る事は無かったのに……。
せっかくのウォーターライドなのに、何故ボクだけ知らないヒトと並んで座らなくちゃいけないんだ?
ウォーターライドは四人掛けだからまだ良いケド、ジェットコースターなんかは二人掛けだから、今日みたいに混んでると知らないヒトと座らされるかもしれない……。
のぞみとあいったら、自分たちだけ好きなだけ絶叫しちゃって、ボクは知らない男の子が隣にいるからへんに意識しちゃって楽しめない。
もっともボクは遊園地の乗り物で絶叫した事なんか無いけどネ。
しかしこの男の子、高校生くらいだと思うけどなんか気持ち悪い。
頭なんか油テカテカで、やけにキッチリ七:三分けしてるし、もう暖かいのに紺ブレのボタンを全部かけてる……。
ウォーターライドは最後に池の中に突っ込むと、頼みもしないのに横から水をバシャって掛けてくれた。
のぞみとあいは、ここでもやっぱりお約束の絶叫をあげた。
真中に座ったボクとのぞみはあまり掛からなかったけど、あいは外側の肩がびっしょり濡れてしまった。
となりの男の子は絶叫こそあげなかったけど、なんかブツブツと文句を言ってたみたいだ。
降りた後もずっと何か独り言を言っていた。
掛けてたメガネを外して拭くとき目が合ってしまった。
それは一層不気味な感じだった。
ボクはそこを離れた後、のぞみとあいに話してみた。
「ねえ、さっきのウォーターライドで隣に座った男の子見た? なんかスゴく気持ち悪かったんだよ。目つきもなんかへんでさ……」
ボクは両手で目を横に引っ張って真似をして見せた。
「まりぃ、ヒトの事をそんな風に言うのは良くないよ」
心やさしいあいはヒトの悪口を言っているのを聞いた事が無い。
「でもね、あの男の子、濡れた上着を脱いでバサバサッ! ってした時に、カランって何か細くて尖がってるヤツを落としたんだよぉ。
ボクは思わず『あっ!』っていう顔をしちゃったケド、キョロキョロ見回したあの子に見られちゃったかもしれないんだ」
「矢口って、いつもボクとか言ってるワリに結構そういうの怖がるよね~。そんなのきっと、ホラ海賊船の近くで売ってたナイフのおもちゃだよ~」
のぞみはあっさり否定してくれた。そういえば二人ともホラー映画やスプラッタ-を観ても顔色ひとつ変えないんだよね……。
大体、遊園地に男の子一人で来るなんてヘン以外の何者でもない気がするんだけどナ……。
それとも友達や家族は乗らないで待ってたのかな?
でも、遊園地の乗り物は面白いし、混んでて暑くて並ぶのが大変で、でも並んでる時のお喋りは楽しくて、あれっきりあの男の子は見かけなかったので、そんな事はすっかり忘れてしまった。
段々夕方が近づいてきて、最後にもう一度ジェットコースターに乗ろうって事になった。
結構空いてきたのでそんなに並ばなかったケド、乗る順番が最後尾になってしまった。
どうせなら一番前が良かったんだけど……。
そしてボクはやっぱり一人で乗る事になりそうだ。
「すみませ~ん、誰かお一人の方はいらっしゃいませんかぁ~!!」
係りのお兄さんが叫んだ。幾ら席が勿体無くてもあんまり混んでないのだから良いじゃん?
ボクは係りのお兄さんの背中を睨んでやった。
「居ませんかぁ? じゃあ閉めま~す」
ボクがホッとした瞬間「待ってくださ~い」と大きな声を出したヒトが居た。
並んでるヒトを掻き分けて横縞のTシャツを来たお兄さんが乗り込んできた。
ボクはあ~あと思いながら、なるだけ顔を合わせない様にした。
安全バーを下ろしてブザーが鳴ると、ガッタンと音がして動きはじめた。
カタカタ言いながらゆっくりと坂を登り始める。
隣に乗って来たヒトが声を掛けてきた。
「こういうの好きなんですか? ボクはチョット苦手なんですよね」
苦笑いをする顔は、確かにあの紺ブレの男の子だった。
Tシャツはこの遊園地の中で売っている海賊の衣装だ。
ボクは心臓をドキドキさせながら、笑ったままの顔にくぎ付けになった。
まだカタカタと登っている時に場内アナウンスがあった。
《場内のお客様にお知らせ致します。 先ほど千枚通しと思われる凶器を持った強盗がオフィスを襲い、数名の死傷者が出ました》
《犯人は紺か黒の上着を着た男性で年齢は不明。未だ場内に居ると思われますので、不審な人物を――》
頂上に上ったコースターは加速しながら一気に急降下を始めた。
この時ボクは、生まれて初めてジェットコースターで絶叫した……。
おわり
2003.05.05 №35
この話しを書いたのは2003年。出演者は今はなき初期の「ミニモニ」の皆さんでした。
2012年の現在なら「AKB48」のメンバーを主人公に書いてみると言うのも良いかも知れません。もしくは韓流スターの皆さんとか。
でも、最近の芸能人ってさっぱりわからんです。