「哀の川」 第二十八話
環の結婚式は盛大に行われた。両親は親戚や相手方の出席者にあえて娘が再婚であることは伝えていなかった。それを隠すためにも盛大な式を挙げてやったのだ。夫になる男性は、父の会社に勤める優秀な社員。地元育ちの35歳になる決して男前ではなかったが、誠実な紳士であった。
その晩、二人は新婚旅行先の北海道で初夜を迎えた。環の落ち着きに比べて、夫は落ち着かない様子でベッドに入ってきた。人形のようにじっとしていた環にかぶさるように、乗りかかってきて、息遣いも荒々しく環の体を触り始めた。解っていたがその感触に震えと硬直が同時に来た。何を勘違いしたのか、夫は、「怖いんだね、大丈夫だから」などと口走り、舌を敏感な部分に這わせた。力ずくで足を押し開かせ、乱暴に指でなぶった。やめて!と声を出したかったが、堪えてされるがままにしていた。押し込むように自分の硬直したものを差し込んできた。後は入ったかと思ったらすぐに動きが止まって、あっ!と声を出して、終わってしまった。
むくっと起き上がって、自分の汚れを拭き、隣で横を向いて眠りに入ってしまった。環は手でその部分を押さえながら、風呂場へ行きシャワーで綺麗に流した。このとき環は純一の子供を宿していることを感じ始めていた。純一とのあの日のことを思い出して、涙が止まらなくなった。せめて優しい夫なら・・・その期待も外れた。これからの人生に不安を感じたが、父と母の喜んでいた顔を思い出して、我慢するしかなかった。
作品名:「哀の川」 第二十八話 作家名:てっしゅう