A Merry Christmas to you!
「クリスマスなんて、クソくらえだ」
雪がしんしんと降る中、1人の青年――拓郎は足下に積もった雪を見ながら忌々しげに呟いた。
今日は12月25日、世に言うクリスマスである。クリスマスといえば子供や恋人たちにとっては夢のような1日である。現に今、街並みはイルミネーションが輝きクリスマスムード一色だ。だがしかしそんな中でも拓郎は不機嫌だった。
白い息をひとつ吐いて拓郎はある店の前を後にした。
そこは昨日、否、たった今まで拓郎がアルバイトとして働いていた洋菓子店だった。彼女とデートするからと言って無理に休みを入れてもらったのだが今日の朝大喧嘩をして彼女に一方的に別れを告げられた。
憂鬱な気分で店にシフト変更を申し出に行けば、クリスマスの期間に戦力にならないバイトはいらないとこちらも一方的にクビになった。
クリスマスだというのに全くツイてない。雪道を歩きながら拓郎はちらりと空を見上げた。もう暗い。今日は家に帰ってもう寝てしまおう。
だいたいにして拓郎にとってクリスマスとは年内で最もツイてない日なのだ。
子供の時はサンタの姿を見ようとして夜更かししたせいで翌日のクリスマスに風邪をひき、中学生の頃はクリスマスの日に両親が離婚。高校生になってからは事故にあったり…。数えればキリがないクリスマス不幸伝説は今年も最悪なエピソードが追加されてしまった。
「クリスマスなんてなくなっちまえばいいんだ」
ダウンジャケットのポケットに手をつっこみながらさっきよりも大きな声で口にすれば少しだけすっきりしたような気がした。
すると後ろの方から何やらシャンシャンと軽やかな鈴の音が聞こえてきた。
「ん?何の音だ?」
拓郎が後ろを振り返った瞬間、派手な音をたてて目の前に『何か』が滑りこんできた。
「いったあ…ちょ、なんでコレこんなに難しいのかしら…」
「……」
その『何か』はおそらくソリ。プラスチックのちゃちいタイプではなく、木製で金属の足がついている。そのソリから転げ落ちているのは赤地に白のラインが入った服装の女だった。拓郎が不審に思ってソリと女を見比べても女についてはそれ以上のことはわからなかった。わかったことと言えばソリには何かが詰まったパンパンの大きな布袋が積んであること、ソリを引いているのはシカだということだった。
「大丈夫ですか?」
「え、あ、ああああああ!!」
拓郎が声をかけると女は突然叫びだした。
今度は一体なんなんだ…。
拓郎は頭を抱えた。
「いやー、先程はどうもすんませんでした」
「お、おう…」
「私、短期アルバイトでサンタやってる真純って言います。よろしく」
「俺、拓郎。よろしく。ところで短期アルバイトって…」
とりあえず場所を変えて、近くのファミレスに入ってみた結果がこれである。
拓郎は注文したコーヒーを飲みながら真純に尋ねた。
「ああ、最近本家のサンタクロースやってるおじさんが海外回るだけで大変だっていうから今日限定でサンタクロースのバイトしてんのよ。ソリは借り物ね」
「…は?」
拓郎は思わず目をぱちくりとさせた。何を言ってるんだろう。サンタクロースのバイト?バイト?子供にプレゼントを配る、サンタクロースのバイト?
「それでね、本当はこのことを部外者に知られちゃまずいのよねえ」
「え、どうすんだよ」
「あんたもサンタやればいいんだわ。拓郎だっけ?どうせ今日暇なんでしょ。ちょっと付き合いなさいよ」
「………」
得たりと笑った真純の顔を見て、やられた!と思ったが口には出せない拓郎だった。
さっさと勘定を済ませた(勿論真純の分も払わされた)拓郎達はソリの前に立った。
「そういえば、なんでシカなんだ?普通トナカイじゃねえの?」
「私の出身奈良なのよ」
「ああ、そういうこと」
「それじゃあ説明するわね。とりあえず私がソリの運転をするから拓郎がプレゼント置いてきて。全てはアンタが保護者に見つからずに任務を遂行できるかにかかってるわ。宜しく」
「え、俺普通のカッコだよ」
「別に誰も見ちゃいないわ」
「適当なサンタも居たもんだぜ」
真純がソリに乗り手綱を掴んだ。真純の隣が空いていたので拓郎は隣に乗り込んだ。そこで、ふと思考停止。
これ、どうやって進むんだ?
「はいよー」
「お前シカ相手だと妙にテンション低いな!」
するとふてぶてしい表情のシカがのらりくらりと走りはじめた。ここからどうなるかと思えばソリはこのまま人気の無い森へ向かっていた。だんだん速度が上がってくる。拓郎はそこで気付いた。
「おい待て!この先は崖っ…」
拓郎が叫んだ瞬間、ソリが浮いた。
「えっ……なんだこれ」
「いやー、成功成功」
「これ、浮いてね?」
「浮いてるわねえ」
「上昇してね?」
「してるわねえ」
「本物?」
「今更何言ってんの」
既に地上の人々が豆粒くらいの大きさになったとき拓郎はこれはとんでもないことになったと、また頭を抱えた。
そんな拓郎に構うことなく真純は一枚の紙を放ってよこした。
「子供のプレゼントのリストよ。一番上から順に回るからすぐ置けるように予め後ろからプレゼントを出しといてちょうだい」
「たくさん回るんだな」
「当たり前よ。ほら、そろそろ一軒目が見えてきたわ」
そんなこんなで四時間ほどでだいたいの家を回り終え、残りは数軒となった時には拓郎と真純も打ち解けていた。
「そういえばなんでサンタのバイトをしようと思ったんだ?」
「ああ、私クリスマスって一年で一番不幸な日なのよね。本当に嫌なことばっかの日。だからクリスマスなんて嫌いだったわ。毎年下着ドロに遭うわひったくりに遭うわ彼氏にふられるわで本当最悪よ。
だけど、世間じゃ一大イベント扱いじゃない?だからちょっと違う事をしたくなったの。まあそんなところよ」
拓郎は思わず閉口した。自分以外にもクリスマス嫌いが居たとは思わなかったのだ。
「うん、俺は、それはいい考えだと思うよ」
「そう?」
拓郎が空を見上げながら言えば、真純は嬉しそうに笑った。
「あと何軒残ってる?」
「ここで最後」
「わかった」
ソリが止まるのを確認した拓郎は屋根伝いに窓を開けてプレゼントを子供の枕元に置いた。そして徐に真純に声をかけた。
「真純、俺トイレ行ってくるわ。その辺の店見つけて適当に入るからちょっと待っといて」
「え、ええ」
そういうと拓郎は道路を駆け出した。真純は怪訝な表情でソリを上空に持ち上げた。
20分程で拓郎は帰ってきた。真純は拓郎がソリに乗ったのを確認すると手綱を握った。
「付き合わせちゃって悪かったわね。家まで送るから道教えて」
「おう、悪いな」
そこから拓郎の住むマンションはそう遠くない場所にあった。が、マンションの回りはまだ人気が多い。ソリは少し離れた場所に降りた。
「近付くと人に見られるからこの辺でいいかしら」
「ああ、ありがとう」
「それじゃ、」
「あ、ちょっと待て」
「何?」
手綱を引こうとする真純を拓郎は歯切れの悪そうに引き止めた。
雪がしんしんと降る中、1人の青年――拓郎は足下に積もった雪を見ながら忌々しげに呟いた。
今日は12月25日、世に言うクリスマスである。クリスマスといえば子供や恋人たちにとっては夢のような1日である。現に今、街並みはイルミネーションが輝きクリスマスムード一色だ。だがしかしそんな中でも拓郎は不機嫌だった。
白い息をひとつ吐いて拓郎はある店の前を後にした。
そこは昨日、否、たった今まで拓郎がアルバイトとして働いていた洋菓子店だった。彼女とデートするからと言って無理に休みを入れてもらったのだが今日の朝大喧嘩をして彼女に一方的に別れを告げられた。
憂鬱な気分で店にシフト変更を申し出に行けば、クリスマスの期間に戦力にならないバイトはいらないとこちらも一方的にクビになった。
クリスマスだというのに全くツイてない。雪道を歩きながら拓郎はちらりと空を見上げた。もう暗い。今日は家に帰ってもう寝てしまおう。
だいたいにして拓郎にとってクリスマスとは年内で最もツイてない日なのだ。
子供の時はサンタの姿を見ようとして夜更かししたせいで翌日のクリスマスに風邪をひき、中学生の頃はクリスマスの日に両親が離婚。高校生になってからは事故にあったり…。数えればキリがないクリスマス不幸伝説は今年も最悪なエピソードが追加されてしまった。
「クリスマスなんてなくなっちまえばいいんだ」
ダウンジャケットのポケットに手をつっこみながらさっきよりも大きな声で口にすれば少しだけすっきりしたような気がした。
すると後ろの方から何やらシャンシャンと軽やかな鈴の音が聞こえてきた。
「ん?何の音だ?」
拓郎が後ろを振り返った瞬間、派手な音をたてて目の前に『何か』が滑りこんできた。
「いったあ…ちょ、なんでコレこんなに難しいのかしら…」
「……」
その『何か』はおそらくソリ。プラスチックのちゃちいタイプではなく、木製で金属の足がついている。そのソリから転げ落ちているのは赤地に白のラインが入った服装の女だった。拓郎が不審に思ってソリと女を見比べても女についてはそれ以上のことはわからなかった。わかったことと言えばソリには何かが詰まったパンパンの大きな布袋が積んであること、ソリを引いているのはシカだということだった。
「大丈夫ですか?」
「え、あ、ああああああ!!」
拓郎が声をかけると女は突然叫びだした。
今度は一体なんなんだ…。
拓郎は頭を抱えた。
「いやー、先程はどうもすんませんでした」
「お、おう…」
「私、短期アルバイトでサンタやってる真純って言います。よろしく」
「俺、拓郎。よろしく。ところで短期アルバイトって…」
とりあえず場所を変えて、近くのファミレスに入ってみた結果がこれである。
拓郎は注文したコーヒーを飲みながら真純に尋ねた。
「ああ、最近本家のサンタクロースやってるおじさんが海外回るだけで大変だっていうから今日限定でサンタクロースのバイトしてんのよ。ソリは借り物ね」
「…は?」
拓郎は思わず目をぱちくりとさせた。何を言ってるんだろう。サンタクロースのバイト?バイト?子供にプレゼントを配る、サンタクロースのバイト?
「それでね、本当はこのことを部外者に知られちゃまずいのよねえ」
「え、どうすんだよ」
「あんたもサンタやればいいんだわ。拓郎だっけ?どうせ今日暇なんでしょ。ちょっと付き合いなさいよ」
「………」
得たりと笑った真純の顔を見て、やられた!と思ったが口には出せない拓郎だった。
さっさと勘定を済ませた(勿論真純の分も払わされた)拓郎達はソリの前に立った。
「そういえば、なんでシカなんだ?普通トナカイじゃねえの?」
「私の出身奈良なのよ」
「ああ、そういうこと」
「それじゃあ説明するわね。とりあえず私がソリの運転をするから拓郎がプレゼント置いてきて。全てはアンタが保護者に見つからずに任務を遂行できるかにかかってるわ。宜しく」
「え、俺普通のカッコだよ」
「別に誰も見ちゃいないわ」
「適当なサンタも居たもんだぜ」
真純がソリに乗り手綱を掴んだ。真純の隣が空いていたので拓郎は隣に乗り込んだ。そこで、ふと思考停止。
これ、どうやって進むんだ?
「はいよー」
「お前シカ相手だと妙にテンション低いな!」
するとふてぶてしい表情のシカがのらりくらりと走りはじめた。ここからどうなるかと思えばソリはこのまま人気の無い森へ向かっていた。だんだん速度が上がってくる。拓郎はそこで気付いた。
「おい待て!この先は崖っ…」
拓郎が叫んだ瞬間、ソリが浮いた。
「えっ……なんだこれ」
「いやー、成功成功」
「これ、浮いてね?」
「浮いてるわねえ」
「上昇してね?」
「してるわねえ」
「本物?」
「今更何言ってんの」
既に地上の人々が豆粒くらいの大きさになったとき拓郎はこれはとんでもないことになったと、また頭を抱えた。
そんな拓郎に構うことなく真純は一枚の紙を放ってよこした。
「子供のプレゼントのリストよ。一番上から順に回るからすぐ置けるように予め後ろからプレゼントを出しといてちょうだい」
「たくさん回るんだな」
「当たり前よ。ほら、そろそろ一軒目が見えてきたわ」
そんなこんなで四時間ほどでだいたいの家を回り終え、残りは数軒となった時には拓郎と真純も打ち解けていた。
「そういえばなんでサンタのバイトをしようと思ったんだ?」
「ああ、私クリスマスって一年で一番不幸な日なのよね。本当に嫌なことばっかの日。だからクリスマスなんて嫌いだったわ。毎年下着ドロに遭うわひったくりに遭うわ彼氏にふられるわで本当最悪よ。
だけど、世間じゃ一大イベント扱いじゃない?だからちょっと違う事をしたくなったの。まあそんなところよ」
拓郎は思わず閉口した。自分以外にもクリスマス嫌いが居たとは思わなかったのだ。
「うん、俺は、それはいい考えだと思うよ」
「そう?」
拓郎が空を見上げながら言えば、真純は嬉しそうに笑った。
「あと何軒残ってる?」
「ここで最後」
「わかった」
ソリが止まるのを確認した拓郎は屋根伝いに窓を開けてプレゼントを子供の枕元に置いた。そして徐に真純に声をかけた。
「真純、俺トイレ行ってくるわ。その辺の店見つけて適当に入るからちょっと待っといて」
「え、ええ」
そういうと拓郎は道路を駆け出した。真純は怪訝な表情でソリを上空に持ち上げた。
20分程で拓郎は帰ってきた。真純は拓郎がソリに乗ったのを確認すると手綱を握った。
「付き合わせちゃって悪かったわね。家まで送るから道教えて」
「おう、悪いな」
そこから拓郎の住むマンションはそう遠くない場所にあった。が、マンションの回りはまだ人気が多い。ソリは少し離れた場所に降りた。
「近付くと人に見られるからこの辺でいいかしら」
「ああ、ありがとう」
「それじゃ、」
「あ、ちょっと待て」
「何?」
手綱を引こうとする真純を拓郎は歯切れの悪そうに引き止めた。
作品名:A Merry Christmas to you! 作家名:中川環