天使を連れた悪人
天使を連れた悪人
私には、天使が一人使わされている。
なんでも前世の私は驚くほど善人だったらしく、そのご褒美らしい。
天使だとか名乗った男は、好奇心も隠さずにこちらを観察してくる。それもえらく楽しそうに。
「俺なんか見てて面白いのか?」
とうとう根負けして聞いてやると、奴は少し驚いた顔をして、それからすぐにまた笑顔になった。
「面白いですよ。我々にとって人は、学ぶべき師なのですから」
「なんだそれは。導かれるべきは人だろう? 俺たちをお創りになったのは、お前が尻尾を振ってるご主人様だ」
暗に犬呼ばわりしてやったのだが、理解できるかどうか。
そう思っていたら、不思議そうな顔で、
「天使に尻尾はありませんよ? 」
なんていうものだから、思わず飲んでいた紅茶を噴き出してしまうところだった。
気がつけば奴はすぐ後ろまで来ている。その手はどこかためらうように、こちらへと伸ばされていた。
それには気がつかない振りをして立ち上がる。不自然には見えないように、紅茶のポットを持ったままキッチンへと向かった。
横目で見てみれば、しょんぼりと腕を下ろしているところだった。
仕方がない。期待は打ち砕かれるものである。
罪悪感など沸くはずもない。
私は今生では、ただの悪人なのだから。
(嗚呼、今日もすばらしく神は平等だ!かつて悪人だった善人が罰されるというのなら、その逆は無いとなぜ言える?)