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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

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第三話 光を生み出す魔法




「こういうやりとり、もうやめよう。もう連絡してくるな?」
なんでもないことのように笑って彼は言った。
仕事場の人と職場以外の場所で会う。仕事以外の話をする。彼と一緒に出掛けたり食事をしたことが数回ある。手を繋いだことはない。そしてそれは突然終わった。彼は最近付き合い始めた人がいる。その彼女をシヨウも知っている。仕事場では比較的仲の良かったと思える可愛い人だ。二人が付き合い始めた時期は知らない。飲み会の二次会の一角でしくしく泣いていたのを見たことがある。「彼のあの性質を直したい。でもわかってくれない」と言っていたと思う。よく覚えていない、というより記憶していない。手作りのプレゼントを持って、彼の為に何かしたいと言っていた。

この街は大部分を山に囲まれている。今は建物に囲まれているので見えない。山を越えた先にある、大きな街への中継地として栄えている。
シヨウはある家に近づく。普通の民家。庭もあり、花が咲いている。そこが、彼女の所属する会社の支社だ。その扉を開ける。来訪を告げる鐘は付いていない。
「すみません。連絡が遅くなってしまって」
広い空間。ソファがある。椅子もある。
一際大きい机に座る女性が笑顔で迎えた。茶髪で肩下からロールした髪が広がっている。
「シヨウさんですね。連絡は貰っております」
品の良い笑みである。これぞ受付嬢といった風だ。
「次ですが、実はあなたにうってつけです」
「うってつけ?」
面白かったので思わず反復してしまった。
「そうです。急で申し訳ないのですが午後からです」
彼女が地図を出し広い机に広げる。
「少し離れたところに小さな集落がございます。魔女の集落です」
指で指した部分を確認する。街の外れだ。
「そこで今夜、祭りが行われます」
「部外者が行ってもいいのですか? その・・・」シヨウは言葉を選ぶ。「血を重んじる、魔女の住むところへ」
「祭りといっても怪しいものではなく宵宮といった感じです。特に規制はされていません。これは確認しました」
二人は顔を見合わせる。
「わかりました」
「夜には戻ってきて、報告をください」
生まれたときから読める文字がある、とうの昔に消えた古語を使う、何百年も生きる、どれも魔女の噂だ。
シヨウは家の奥に進む。普通の住居をそのまま使っている。彼女のような労働者が住むこともできる。ソファに座る。少し眠る。先日貸した物を受け取りに行くために朝から歩いた。それから勤務なんてまだまだ若いなと少し思った。

目が覚めたのは昼。時間を確認する。そんなに眠っていないが頭はすっきりしている。
家を出る。地図を思い出す。
どうにも気が乗らない。しかし仕事とは元来そういうもの。
その鎖から解放される瞬間を想像し、休日を楽しみにして人は働く。ストレスの無い生活を送ると、それは味わえない。
仕事を生き甲斐にしている人がいるとする。行き詰まったらどうするのだろう。
生き甲斐が無くなる。つまり、もう生きている理由がなくなる?
世襲で家業を営んでいたとしても、それが理由で死んだという人をシヨウは聞いたことはない。死んだ人がいるならばそれは金銭の問題だろう。
彼女の気が重かったのは、今から行くのは市場調査という名の内偵だからだ。
一万年前、この星にノス・フォールンという種族が降り立ったとき、魔女の一族は姿を消した。残ったのは、大半を占めていた原住民と、魔女と原住民との子供の混血ばかりだった。今の人類の魔女の血を引く者たちは、彼らの子孫といえる。
元々、気質が高い彼らは自然と同じ場所に集まる。文化や思想はあまり知られていない。過去に大きな争いがあったわけではないが、色々な噂がある。シヨウにはあまり興味がなかった。

魔除けの効果があるらしい木が二本立っている。その間をくぐって村の敷地へ入る。左へのカーブ、それに沿う家々。手摺りのない橋。水底を覗きながら渡り、右へ曲がるとすぐ山の斜面が迫っていた。その下の道。木の根が所々から出ている。昼過ぎなのに暗く涼しい。そしてどこを見ても人がいた。子供ではなく大人のほうが多い。仕事をしているわけではなかった。藁を積み、束にして結ぶ人。大きな野菜の中身をくりぬく人。その大人がシヨウに気が付く。
「おめえ、どっから来たんだ?」
彼女の頭から足へと視線が動く。最後に顔に戻ってきた。
「なんだか楽しそう。知らなかったです。この街の人間ではないのですが、お邪魔しては駄目でしたか?」
もう一度視線が動く。一拍あって返事がきた。
「うーん、いいんでないか。そのかわり」大きく手振りする。「準備に参加すること! これは必須だべ」
後片付けはしなくてもいいのか、とシヨウは思った。
「それに、今年の舞い手はすごいんだ。見ていくといい」
「舞い手? 踊りがあるんですか」
「そうだぁ、最後のトリってやつだ。そこで踊るやつなんだがなんと、ロエなんだ」
「ロエが使える人なんですか。すごい! 楽しみです」
「ああ。最近は」声が小さくなる。「ロエが使えないやつしか産まれねえからな」
ロエは女しか顕れない力だ。電気が無くてもかろうじてだが生きていける時代に、必要とは思えない。時代は移り変わっていく。人の考えも。魔女は寿命が平均して長いのは知っている。昔からのものを抱えすぎているのではないか、と分析。
「そうだ、あいつ、まだ完成してないんだ。あいつを手伝ってやってけれ。ほら、あっち」
少し離れたところに小屋がある。そちらに向かう。女の子が前から走ってくる。シヨウは避けたがその脇で転んだ。
「大丈夫? 立てる?」
女の子は無言で立った。口をきゅっと結んでいる。眼に強く力を入れていた。膝の砂を払ってやる。持っていたハート型の焼き菓子が割れていた。
ほぼ真ん中の位置で二つの膨らみは割れていた。二人はそれを見つめる。
「はあ、こんなんじゃだめだ」女の子は溜息をついた。
「これじゃあだめなの。あーあもういい。これ、お姉さんにあげるわ」
「い、いいの?」
「何?」
「このままでもいいんじゃない。これをあなたがくれたという事実が大事なわけだから、割れたくらいでプープー言うような奴はだめだよ」
「そう、これを作ったことは私にはいい経験になったわ。けれど外面的にはどうかしら? 制作過程を見ていない人には、結果でしか私の努力は表現できないじゃない。私は知識を得た、という証拠、証が無ければそれは失敗と思わない?」
「でもその努力は知っている人が知っていればいいし、制作過程が楽しいと思う人もいるし、完成品に興味がなくなる人もいる。どこに価値があるかは自分が決めるんじゃない?」
「けれど他人の為にやったのなら、結果はそれなりに掲示しなくては」
女の子は笑った。
「ふふ、魔女は長寿なのよ? 経験はいくら積んでも損はしないわ」焼き菓子を差し出す。「つまり作り直すっていう結論でいい?」
「多分。あと、気をつけて歩いてね」
女の子が行ってしまって見ると、小屋の庇の下に布が大量に積まれている。山というたとえも頷ける場所で裁縫をする人物がいた。その人物に近づく。
「あのー・・・手伝えと言われたのですが、何か出来ることはありますか」
「うん、ちょっと」
しかしその後の言葉がない。
作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン