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比翼連理=Fobidden Fruit=

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1.想いの波光



 漆黒の翼に抱かれながら、そっと瞳を開いたシャカは遠く彼方に広がる冥界を見下ろす。
 豊かな闇の世界だと聖戦の折にも感じたが、こうやって高い位置から見下ろす冥界は本当に広く果てしないものだとシャカは思った。
 轟々と音を伴って流れ落ちる大瀑布を越え、氷の獄を越えてようやく辿り着いた本拠地ともいうべきジュデッカに舞い降りる。
 出迎えた冥闘士たちが当然のように冥王に傅く態は、やはりシャカにすれば異様な光景に映ったが、確かアテナを迎えた時もこのように自分たちも同様に膝を折り、頭を垂れたものだと思い出した。僅かに貌を強張らせただけだが、ハーデスはすぐさまシャカを引き寄せ、ゆっくりと闊歩する。
「―――何もおまえが案ずることはない」
 かろうじて届いた低い囁きに冥王のほうへ視線を向けると、不思議な色合いをした瞳が細められ、ふっと柔らかな笑みが返された。
「わかっている」
 ほんの些細な感情の変化さえ感じ取る冥王に苦笑する。浅く呼吸を整えながら、冥王と共に館へと続く道を歩く。
 その手に導かれるままに邸内に進むと冥界での実力者であろう、威風堂々とした三人の冥闘士が姿を現した。
「俺は天猛星ワイバーンのラダマンティスだ」
 三人の中でも眼光鋭く、体躯の秀でた男が前に進み出て、短く名を告げた。続いて前髪を長く伸ばした表情のあまり伺えぬ銀髪の男が、薄い唇を僅かに吊り上げながら、軽く会釈をする。
「天貴星グリフォンのミーノスです」
 最後に勇猛果敢な面をした黒髪の男が僅かばかりに瞳を伏せると若干の間を置いて、名乗りを上げた。
「......天雄星ガルーダのアイアコス」
 三人はすっと下がると膝を折り、冥王の前に傅く。
「これら三名は冥界の主軸たる者たちだ。今後何かと顔を合わせることもあるであろう。見知っておくがよい」
 ハーデスが付け足した言葉に小さくシャカは頷くと、一人一人の顔をゆっくりと見回す。
「冥界三巨頭と聞きし及んでいる......直接、相対した者たちから、辛酸を舐めさせられた相手とな」
 ふっと軽く笑むと満足そうにハーデスもまた小さく笑った。
「四界きっての自慢の軍であるからな。だが、アテナを守護る聖闘士......黄金聖闘士もまた手強き相手よ......のう?ラダマンティス」
「はっ」
 短く答え、頭を垂れるラダマンティスに目をくれながら、奥へと更に進む。そして聖戦の折、憑依された瞬が座していた玉座の間へと辿り着いた。
 艶冶な雰囲気に包まれた黒髪の美しい女がゆっくりと膝を折り、腰を屈めてハーデスを出迎えた。すいと再びまっすぐに背を伸ばすと毀れんばかりの笑みを浮かべる。
「おかえりなさいませ。ハーデスさま」
「ああ」
 冥王はシャカに向き直り、その女を前に引き寄せて紹介する。
「この者はパンドラ。今から判官たちとの会議ゆえ、私室にて休んでおるがよい。この者が案内する」
「......わかった」
「こちらへ。妾のあとにお付き下さいませ」
 静々と歩き出したパンドラの後についていく際にちらりとハーデスの方を盗み見ると、玉座へと向かっているハーデスの後姿が見えた。僅かにだが、苛立ちにも似た気配を感じた。
 長い廊下に出たところでパンドラに疑問をぶつけた。
「何かあったのか?」
「―――何も、と答えるべきところだが、そなたの目は誤魔化せぬだろうし、おぬしにも我が身の立場というものを自覚しておいて貰わぬと困る。ゆえに、あえて申しておくが......ハーデスさまも微妙なお立場なのだ。おぬしにもそのことはわかっておいて欲しい。あまり、事をややこしくせぬよう、此処にいる間は大人しく過ごすことがそなたの身のためだ」
 立ち止まることなく、前に進み行くパンドラの言葉に耳を傾ける。
 冥界と地上とを行き来する己という存在は極めて特殊な例なのだろう。ましてや黄金聖闘士という役目も担っている。永きに渡った冥界と聖域との争いは一応の終息を迎えたとはいえ、具体的な取り決めなど何一つ決まってはいない。
「それは承知しているつもりだ」
「おぬしが聖域のものでなければ、なんら問題はなかったのだがな......。天界とは極めて友好的関係を築いておったのに、此度の件でアテナは天界の主へ宣戦布告ともとれる行為を行った。そして、おぬしの存在がここにあることによって、ハーデスさまのお立場を危うくしておるの だ。ゆえに一部の者たちはそなたを歓迎してはおらぬ」
 パンドラは翼を広げた神獣のようなレリーフが施された扉の前に立ち止ると、ギッと重い音を伴いながら静かに開いた。広い部屋は大きな窓が嵌められており、冥界を一望できる見晴らしの良い部屋であった。中心には見事な細工が施された円卓に椅子。奥には天蓋つきの寝台。だが、どれも装飾が華美というわけではなく、落ち着いた色合いのものばかりで、どこか懐かしささえ感じるものばかりだった。
「―――ここはずっと......長い間、閉ざされていた場所。誰も此処に立ち入ることは許されなかった場所だ」
「ペルセフォネの...部屋......か」
 ひとつひとつの家具に手を伸ばし、その肌触りを確かめるシャカの姿をパンドラは静かに眺めみていたが、しばらくしてシャカに問いかけた。
「ひとつ尋ねてもよいか?」
「ん、何かね」
「そなたは黄金聖闘士のシャカであるな?」
「ああ」
「だが、ペルセフォネでもあるのだな?」
「―――神の領域に踏み込んだ力は内在しているが、あまりその意識は感じない。“意思”として存在するというよりは“力”として存在している、とでも言えばわかるか?」
「ということは......つまり、魂の存在自体はないのじゃな?」
「いや......どう説明すればいいか......上手くはいえぬが、魂の存在の有無でいうならば、“有である”と答えるしかないが......」
 困惑顔で答えるシャカにパンドラは僅かに頬を緩めた。
「フフ...すまない。困らせるつもりはなかった。ただ少し興味があっただけだ。ハーデスさまはその魂にお心を奪われておいでなのだな」
「そうであろうな。彼の者に似た姿形にも惹かれているのだろう、あの者は」
「―――おぬしはどうなのだ?」
 窓の前に立って、景色を眺めみていたシャカは「え?」と振り返る。
「おぬし自身の気持ちはどうなのだ、と聞いておる」
「私の気持ち?おかしなことを聞く女だな」
「なぜ?」
「私の気持ち云々は関係あるまい。恐らくはハーデスたちの問題ではないか?」
「先ほどペルセフォネは意思としての存在ではないと、おぬし自身が申したではないか。ならばそなたの気持ちが重要なのではないか?」
「―――そうなのか?」
「いや、聞いているのは妾なのだが。まこと、おかしな者よの......フフ」
 上品に笑うパンドラはどこか、聖域の女神にも似た雰囲気を持っていた。僅かに残る幼い表情がそう思わせるのかもしれないと思いながら、ふぅと小さく息をついた。

作品名:比翼連理=Fobidden Fruit= 作家名:千珠