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終焉への恋 Ⅲ。

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「4時13分 ご臨終です」
医師の言葉に晃は頭を下げた。

妊婦のように膨らんだ腹部を開いてはみたものの、手の施しようがなかった
直ぐ閉じられて半日
心の中で
「よく頑張ったな・・・」
途切れ々に茜の表情が浮かぶ・・・

1年前
「ねぇあなた なんだか重いの・・・
力が出ない・・・どうしたのかなぁ・・・」
いつも笑顔を絶やさない茜の顔が少し曇っていた

「忙し過ぎるからじゃないの? 少しは休めば良いんだよ」

「そうね、志保ちゃんにお願いして休むわ」

茜は美容室のオーナー技術者で有った
明るい人柄とウイットに富んだ会話にファンの多い茜は、
夢中で仕事に取り組んでいた

結婚して10年 
子供が授からない体 と医師に宣告されてからは尚、夢中で取り組んできた
晃も子供だけが全てではない、と茜の気の済むようにしたら良い、と
見守ることを決めていた

晃は輸入雑貨の店舗を3軒持ち、時には買いつけに海外に出かける事も多く
互いに過干渉になる事も無く穏やかに暮らしてきた

・・・なぜもっと早く、気付いてやれなかった

思い返せば、ふっと疲れた表情の時が有った
あの頃気付いていれば・・・
晃の逡巡は続く

茜が外来に行った翌日、医師は晃に電話をよこした
「奥様の事で、なるべく早くお目に掛かってお伝えしなくてはなりません」
ざわつく胸騒ぎを抑えて、翌日逢う約束をして電話を切った

「あら 先生からなんのお電話?」と尋ねる茜に
気付かれない風を装いながら
「あぁ 僕にも定期健診に来なくちゃ と言うお叱りさ」

「そうよ 貴方 何でも無かったら安心じゃありませんか、良い先生よねぇ
明日、早速いらしたら良いわ」

屈託のない笑顔で亭主の身を案ずる妻の顔はなんの疑いもなく、穏やかで有った

翌日、医師の表情の重さに晃は覚悟を持って臨んだ
「家内の病状でしょうか」

「はい、なんと申しあげて良いのか・・・
直腸がん です・・・それもステージⅣ・・・
医師の立場でこんな事は言いたくないのですが・・・手遅れの状況です・・・」

「・・・どうすれば良いのでしょう
手術でしょうか・・・それとも・・・」

「今の段階では、痛みなど、身体症状は出ていません・・・
これは僕の考え方なのですが、手術などで身体を痛めつけるより、
投薬で症状を見ながら対応を考えることにしたら・・・と言う
、無責任に思われても已むを得ないものなのですが・・・いかがでしょうか」

「それで茜、否 家内はいつまで・・・」

「半年、若しくは1年・・・」

「その間、家内はどう過ごさせるのですか」
少し怒気を含んだ晃の言葉に、
医師は応えた
「この今の状態からですと、何時、痛みや身体の衰えが現れるか見当がつきません
出来るだけご本人の暮らしを替えないで、
そのまま過ごすことを勧めたく思うのですが」

医師の誠実な対応に任せることを決めた

あれから1年
開腹手術は最後の可能性を見極める手段で有った

この1年 茜の思うように、したいように見守ってきた
お腹が脹れてしんどい、と弱音をはきだしたのが2ヶ月前
手・足は急激に細くなっていった
息をつぐのも辛い表情を見せるようにもなっていった

そして急な坂を転がり落ちるように病状が悪化していった

・・・本当に手術しなくて良かったんだろうか・・・
後悔のような重い気持ちを医師に告げた

今となっては言い訳も効かないのだが、何もしないで終わらせたくない
そんな思いが膨らんで医師に訴えた
可能性はゼロとは言えない と言う未知への挑戦 のつもりで開腹手術に
到ったけれど・・・
どうする事も出来ず閉じた

そして4時13分 茜の闘いは終わった。
作品名:終焉への恋 Ⅲ。 作家名:ぱーる