青空に白く棚引く
前日までのどんよりとした空が嘘のように、その日は朝から雲一つ見えない青空だった。
でんと構えた山が街を見下ろしている。
三月だというののに雪にすっぽりと包まれたその山は、白いシルエットを青いキャンパスにくっきりと描き出した。
「今日は晴れて本当によかったわね。」
天気予報では降水確率20%とあやしかったのに、こんな時だけは彼の希望通りに晴れるのだ。
真っ赤に泣きはらした瞳で、彼女はもう自分にしか見えないだろう、彼の幻を見上げる。
いつもの様に少しはにかんだような笑顔で見下ろしながら、彼の口元が何かを言いたげに動く。
「え、何?」
彼女の問いに答えることなく、彼の姿は煙突から棚引く煙と共に青い空へと吸い込まれるように消えていった。
「さようなら。」
彼女は彼の消えた方角を見ながら呟く。
もう彼の幻は見ないだろう。
そう確信しながら……