小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

プティ ムシュ 6-8

INDEX|1ページ/1ページ|

 



   6

 
 私の眼前にそびえ立つは、見るも無惨なおんぼろアパート。昭和初期を思わせるこの建物は、例の有名映画を私に思い出させた。ちなみに今は昼前で、夕日とは無縁だし、ここは三丁目ではなさそうだ。
 傍らには例の女子中学生『ノワール』がいる。
「この建物に入っていったの。」
ノワールが言う。
「それに変なモノを持ってたの……。」
彼女の顔が青ざめているように見えた。
 ところで学校はどうした?と聞きたかったが、どうせ適当にはぐらかされると思ったし、私はこの少女の保護者でも何でもないので今更どうでもよかった。ただ、巡回のお巡りさんに「職質」でも受けたらどうしようかとは思った。
「変なモノって?」
ノワールは一拍おいて、
「人間の腕から下。」
と言う。

「人間の?」
私はマネキンか何かだと推測した。

「ねえ?どうする?とりあえず突入する?家宅浸入する?」
さっきまでの青い顔に赤味が差し、その瞳には何やら好奇心で満ち溢れている。
 その時だ。声がした。出所は解らなかったが、「そこではなんだから入ってきなさい。」と呼びかけてきた。
ノワールの目を見る。彼女にも聞こえたようだ。
 私たちはどちらが先にということもなく、自然と二人してアパートに入っていった。
 どこから声がしたのか解らなかったが、自然と足が奥の部屋に向かう。
「ここだよな。」
何故か確信があった。ノワールも否定はしない。ノックはしなかった。ノックをするという行為は、「これから入りますよ?」であったり、「入っていますか?」という確認の行為である。ここにプティムッシュがいて、私たちがここに入るということは、もうお互いに了承済みなのだ。
 ドアを開け中をのぞく。六畳一間。部屋は薄暗い。
「我々は穏健派でなぁ。」
プティムッシュがしゃべり出す。ただ、姿は見えない。
「会長さんでいらっしゃるとか?不動産関係の?」
私は聞いてみたし、そういう話だと思った。会社グループ内のことだと思ったのだ。
「我々のようなモノが、人間の世界に住むようになって……。違うな。我々はずぅっと昔からいたのだよ。静かに暮らしていた。猿共が群れをなして何かやっておる、と思っていたら、いつの間にかこんな世の中を創っておった。
 それでもだ。我々は人間の社会というものに興味を持った。秩序による統制、治安の維持など、すばらしく思ったものだ。そこで我々も生活の場を人間社会に移した。もちろん、なじめなかった者もおるし、ハナから人間との共生を望まなかった者もおった。」

「言ってることがよく解りませんね。穏健派?革新派とかもいるというのですか?馬鹿馬鹿しい。」
私は感想を率直に述べてみた。そして、ノワールに視線を移してみると、彼女は真剣なまなざしで周囲を見回しているように見える。
「とりあえず、今の話からすると、あなたは人間ではないということですか?人間の言うところの妖怪?とかそんなところでしょうか?」

「人間はすぐに枠組みを作るものだなぁ。いやいや、その習性があってこその組織力というべきか…。自分たちが納得いくようなシステムを上手く作りおる。何かにつけて自分たちの理解できる範囲で物事の定義を創り、納得する理由を創る。進化論。科学。様々あるなぁ。そして、自分たちの理解を超える者は否定する。そうだろう?」

プティムッシュ(と思われる声の主)は続ける。
「我々がどこから来たかはどうでもいい。お互いの繁栄を祈ろうじゃないか?もっとも、人間にとってはつらい地球環境になっておるがなぁ。まぁ、それも…自業自得か…。」

 私は聞く。
「それを聞いて私にどうしろと?政治家にでもなれと?産業国家をことごとく壊滅させるとか?それにあなた達は、生きていく上で、酸素も水も必要としなければ、オゾンホールによる被害もないということでしょうか?ではどうやって、エネルギーを得ているのです?」

 私はこれ以上話を続けても無駄だと感じた。



   7


 報告

「今回は大きな動きがあったようです。ターゲットに接触ができたとのことです。ただ依然として彼らが何を考え行動しているかは解らないようで…。はい。ただ、彼ら全てを根絶やすにしても、その規模、組織力共に不明なため、こちらから動くことも困難かとおもわれます。…はい。それともう一つ、例の件ですが、ええ、接触を許してしまいました。これも大きな問題ではありますが…。はい。また、追って報告いたします。」


   8


 あのおんぼろアパートの一件があった後、一度だけ白石麗子に会った。通勤の電車で一緒になり、
「今夜、ちょっと付き合いなさいよ。仕事が終わったら、ここに電話かけて。」
と、いつも通りと言うべきか、一方的に電話番号が書かれた紙片を渡された。ただその番号が携帯の番号ではなかったことが少し不思議に思われたが…。

 その日は仕事も早くにはけ、他に用という用もなかった私は、バカ正直にも電話をかけた。
「やっぱりこのタイミングだったわね。」
と、意味のわからない言葉を彼女は口にした。
 その後も一方的な命令口調により、私はとあるバーに誘われることになる。
 バーに入った私たちはカウンター席に腰を下ろす。注文は白石麗子に任せることにすると、名前も解らないカクテルが運ばれてきた。私が食事を所望すると、彼女はとりあえず飲めと言う。そして、
「今日呼んだのは他でもない、私が暇だったのよ。」
「だろうね。」と相づちを打ちたかったが、
「そりゃ光栄だ。」
と、皮肉を込めていってみた。
「でしょ。」

 白石麗子に例のプティムッシュの事を話してみると、当然ながら笑われた。その上、少し頭がおかしいのではないのかと疑われ、全てが夢だったのではないかと諭されもした。
 白石麗子の一方的な口調で諭されると不思議とそんな気分にさせられる。

「でなきゃ、そのガキに謀られたんじゃないの?」
「謀られる。」
思わず復唱してしまった。
 しかし、その可能性を否定しきれないのも事実であった。大体にしてその存在そのものが怪しすぎる。
「あなた騙されやすそうだもの。」
確かに。呼び出されるまま、ほいほい着いてきてここに至る経緯を考えると、その発言は十分な重みを持っていた。
「世の中そうそう不思議な事なんて無いものよ。」
私にとっては、あなたの存在は十分過ぎるほどに不思議です。と言いたかったが、勿論やめた。

 バーでの支払いは白石麗子がしてくれた。別れ際、白石麗子が例の「ホテルに行こう。」発言をしてきたが、むろんその案は棄却された。


   9


 
作品名:プティ ムシュ 6-8 作家名:橙家