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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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切り取られた日付けの町

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気を失い沈んで行った所がどこなのか田村には解らなかった。
その町は見たことのある町であった様な気がした。
田村は酒の看板を見るとその店に入ることにした。
「・・・・・・」
30代の女は口を開けてはいるが声は聞こえては来なかった。
多分『いらっしゃいませ』と言っているのだろうと田村は感じた。
カウンターに腰をかけウイスキーの水割りを頼んだ。
いつもの口当たりではなかった。
何か潮っぽい感じだ。
「換えてくれないか」
田村は新しいグラスを口にしたが、やはり前のものと同じであった。
「ここの水は美味くないね」
「・・・・・・」
『そんなこと有りません普通ですよ』
と言っているらしい。
まわりを見ると誰もが楽しそうに酒を飲んでいる。
ただその人たちからは声は聞こえなかった。
何故声が聞こえないのだろうかと田村は考えた。
この部屋を満たしている空気と思いこんでいたものが、空気のように抵抗のない海水である事が解った。
そのために鼓膜が圧迫されていたのかも知れなかった。
1時間もすると、田村は音が聞こえるようになった。