電気は今日も不眠不休
シャンプーや石鹸とか身近な日常雑貨。
ひとーつづつカゴに入れて、いっぱいにしていこう。
私たちの間にはオレンジ色のプラスチックのカゴ。
向こう側のその手を、絶対にはなさないで、ね?
「あと何買うんやっけ?」
「えーと……あとは……あ、牛乳です」
閉店間際のスーパーは、決まっていろんな商品(食べ物とか特に)が安くなる。(特に雨の日はうんと安くなるんだって)。
そのときを見計らって私たちは買い物にきたわけで。となりで品定めをするダーリンもといそーちゃんは、真剣そのものだ。
「スピカちゃん、歯磨き粉ってまだあったっけ?」
「んー……ない、かも……」
二人で片方ずつ、カゴを持って。同じスピードで歩く。
「じゃあ、買って帰ろか」
たぶん、周りからは仲良しな兄妹に見られているんだろうなあ。
「そうですね。また洗顔剤で歯をみがくなんてごめんですし」
「ほんまに」
クスクス笑っていたら、パート帰りらしい、疲れた顔のおばちゃんが私たちの方を見た。
「ふふ……静かにせんとな」
「そーちゃんが、あんなこと言うから」
そう言って顔を見合わせて。また、笑い合った。今度はこっそりと。
今日はふたりでスーパーでお買い物。
みんなには、ナイショ。誰にも、ナイショ。誰も、知らない。誰にも、教えてなんかあげない。
こんなところでデートだなんて、誰も信じてくれないんだろうけど、ね。
「歯磨き粉とー……あ、お菓子も買ってかえりましょう?」
「……太るで」
「いいんですっ! どっちにしてもお稽古で動くんですから!」
買わなきゃいけないものは、オカネでしか買えないもの。オカネで買うことが出来ないものは、かけがえのない、だいじなもの。
そんな関係が、何だかすごく嬉しいの。
「うそうそ。もうちっと肉つけんと倒れてまうで」
にっこり、笑って。私の耳元で小さく、ささやいた。
オカネなんかじゃ買えないものを、私は手に入れた。大好きなあなたと、ふたりっきりになれる幸せを!
「あ、タイムサービス始まりますよ!」
(今日のおすすめ商品はタマゴとケチャップとベーコン。今夜はオムライスに決まりだね!)
作品名:電気は今日も不眠不休 作家名:狂言巡