幽霊さんのお楽しみ
「オーイ、こっちにすっげえ可愛い子がいるぞ!」
暗い空間に浮かぶ、無数の鏡の一つを覗きこんで、
悪友の井原が俺を呼んだ。
「しかも今、入浴の真っ最中だー」
その声に魅かれ、俺もまた井原に続き鏡をくぐる。
楽しみの少ない俺達幽霊にとって、覗きは格好の娯楽だった。
鏡を出ると、そこは浴室。
なるほど井原の言う通り、A○B48のメンバーにも引けを取らないキュートな女子高生だった。
脱衣場には綺麗にたたまれた、名門女子校の制服がある。
生前であれば、まるで縁のない少女だったろう。
それが今、俺の前で恥ずかしげもなく裸体をさらし、髪を洗っている。
「ウオー、幽霊になってよかったぜい!」
俺の気持ちを代弁するかのように井原が叫んだ。
ただ、問題は彼女を覗く見物客の多さだった。
裕福な家の娘と見えて、バスルームは三畳程ある広さだったが、それでも六人もの幽霊がいては、ろくに彼女の裸体を拝むことなどできなかった。
「オイ、後から来たやつ、ちっとは遠慮しやがれ!」
「なにを、彼女は俺も前から目をつけていたんだ」
先客の幽霊の怒声に、井原も切れた。
「井原、やめろって」
俺が止めるのも聞かず井原は先客の幽霊と取っ組み合いを始めた。
だが、どんなに暴れようと、怒鳴り声を上げようと髪を洗う少女には聞こえない。
はずだった・・・。が、
「うるさいわね! 人の家で騒がないで!」
驚いたことに少女が、俺達の方を見据えて怒鳴ったのだ。
幽霊全員がいっせいに固まった。
「最後だから楽しませてやろうと思ったのに、バカばっかりね!」
少女が風呂桶の中から呼び笛を取りだした。
「ヤバイ、逃げろ!」
先客の幽霊が慌てて鏡の中に飛び込もうとしたが、時すでに遅かった。
いつのまにか俺達はバスルームの壁から湧き出てきた四人の死神に取り囲まれていた。
「体が動かねえよー」
井原が泣き声を上げたが、動けないのは俺達全員だった。
「あたりまえよ。結界を張ったんだもの」
制服を着込んだ少女が笑いながら、井原の顔に伝票を貼った。
それは宅配便の伝票の様なもので、乱雑な字で「じごく行き」と書かれてあった。
どうやら彼女は死神の眷属(けんぞく)のようだった。
連行される中、ふと振り返って彼女の家の屋根を見ると、そこには……。
【 悪霊(♂)捕縛・集配センター 】という看板が立っていた。
――― おしまい ―――
作品名:幽霊さんのお楽しみ 作家名:おやまのポンポコリン