更新日時:2016-05-04 16:48:29
投稿日時:2012-03-04 17:34:53
旅に行こうか
著者の作品紹介
葉子が口紅を差す後ろ姿を見て、「恋をしたね」とあざみは言った。
葉子は思わすその手を休め、振り向いた。
「そんなことはない。それにどうしてそんなことが分かるの」と平静を装いながらも、ちょっときつめに反発した。
「怖い顔して、ますます怪しい。顔に書いてあるわ。私は恋していますって」
「そんなことはないって」
「いいわ。でも、決してだまされちゃいけないよ。男なんて、少しでも甘い顔をすると、女の弱みに付け込んで、まるでおっぱいでもしゃぶるように、骨の髄までしゃぶるのよ。まさか、ここに来る客に惚れたんじゃないだろうね。ここに来るのは、皆、体目当てのろくでなしよ」と言うあざみは、そのろくでもない男にひっかかった経験があった。それだけに言葉の重みがあった。いつもなら素直にうなずいただろうが、その日は少し苛立っていた。啓介が来なくなって三週間経っていたからである。そのことが啓介への思いを高めると同時に苛立たせもした。
葉子は思わすその手を休め、振り向いた。
「そんなことはない。それにどうしてそんなことが分かるの」と平静を装いながらも、ちょっときつめに反発した。
「怖い顔して、ますます怪しい。顔に書いてあるわ。私は恋していますって」
「そんなことはないって」
「いいわ。でも、決してだまされちゃいけないよ。男なんて、少しでも甘い顔をすると、女の弱みに付け込んで、まるでおっぱいでもしゃぶるように、骨の髄までしゃぶるのよ。まさか、ここに来る客に惚れたんじゃないだろうね。ここに来るのは、皆、体目当てのろくでなしよ」と言うあざみは、そのろくでもない男にひっかかった経験があった。それだけに言葉の重みがあった。いつもなら素直にうなずいただろうが、その日は少し苛立っていた。啓介が来なくなって三週間経っていたからである。そのことが啓介への思いを高めると同時に苛立たせもした。
感想コメント (2)
すごくいい!会話文から啓介と葉子の人物像、その心の内まですぐに想像できます。短い掌編でありながらキャラクターもストーリーも十分に書けていて素晴らしいですね | ただ書く人 | 2012-03-11 14:07:41
大人の恋はもどかしく、それでいて始まりは突然やって来る。人生の旅路は二人の距離を縮めたのでしょうか。 | 退会ユーザー | 2012-03-04 18:32:52